Research Abstract |
日本美術史研究の最大の問題点は, 現存する作品が少ないことと, 更にその中に模写や偽物が混入し, 流派研究, 個人作家研究をするにも, 作品の全体像や作風, 背景となる絵画思想等がつかみにくく, 研究を不正確なものにしてきた. そこで本研究では, 失われた作品の写真と資料を収集整備してコンピューター化し, この豊富な資料を基に, 落款印章の照合による真偽判定更には時代判定の方法を確立した. 又, 落款印章のない作品についても, その作品に使用されている画材や技法等を分析することにより, 各種の研究の基盤となるデーターを得ることに成功している. 落款印章研究, 技法分析研究を可能にしたのは, 現代の最先端をいく画像処理装置によって鮮明な拡大画像が得られるようになったからで, この両者の新しい研究方法を併用することにより, 今まで解き明かせなかった日本美術史の不明解な部分を次々と解き明かすことが可能となった. この二つの研究方法は, 今まで本格的に美術史研究に取り入れてはおらず, 特に技法分析研究に関しては, 手がつけられていない状態であったが, どちらも極めて客観的にデーターが得られ, 曖昧な資料やデーターをもとに成されて来た従来の研究方法とは, 比べものにならない正確な研究を可能にした. 又, データーが正確であるために, 種々の新しいアプローチも可能となり, 研究の範囲が無限に拡げられる. その成果の一部は, 「水墨画の流れの中に見る蕪村作品の特異性」(『MUSEUM』第439号), 「応挙と蕪村の交友」(『研究紀要』9号)等にまとめた. こうした研究成果は, それだけで終わるものではなく, 更にそれを基盤として様々な分野の研究が可能となって展開していくものであり, 日本美術史研究の飛躍的進歩に継がるものと確信する.
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