1990 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
62065001
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐々木 丞平 京都大学, 文学部, 教授 (20144313)
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Keywords | 落款印章 / 技法分析 / 日本絵画史研究方法 |
Research Abstract |
本年度、特に研究成果として大きかったことは、我国既成の文化が、発展途上において、異文化の流入や吸収を経て、どのように文化的展開や変化、発展を逐げたのか、その具体的結果をつかむことができた点である。昨年度までに、芸術は単に芸術内だけでの他流派の刺激などで変化するものではなく、その変化の背景となる社会的事情、社会心理学的背景、学術文化的なものからの影響、交通情報網の発達など、様々な要因があることを解明した。本年度は更にそれらの社会的背景の要因によって芸術表現にどのような変化があったのかを一つ一つ、技法分析研究により具体化すると共に、一方、一つの表現形式が数世紀の間に、これら社会的背景との絡み合いでどう変化し展開していったのかを、長期間にわたって徹底して追跡解明した。この縦横からのアプロ-チを重ねることによって、従来は一つ一つ単独で考えられていた表現形式が、実は大きな幹から枝分かれした状況にあることも明らかになった。又、芸術の流れは社会文化的流れを正に反映したものであって、逆に言えば、芸術の展開、変化、発展の軌跡を追うことによって、その時代その時代における人々の内層心理、社会心理をつかむことが可能であることも明らかになった。各時代において人々が何を尊び、何にすがり、どの様な思考方法を取っていたかという事が、単に政治経済等の数値では割り出せないその時代の社会的動きを起動せしめたその背景にある大きな原動力なのである。芸術的表現の移行は、こうした社会的内面の力の流れ、強さを如実に反映していることが、研究成果として上がっている。又、我国においては異文化の流入があっても、それを既成の文化の中に取り込んで行き、いきなり異文化に取って替わるようなことの少ない文化構造(体質)があることも確認できた。こうした成果の一端を京都大学美学美術史学研究室研究紀要にまとめた。
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