Research Abstract |
本年度は初年度であるので, 研究課題について要求される基礎的な諸概念の確定につとめた. (1) 言語による美術作品の記述に関しては, 従来, 言語分析による哲学的考察の観点が欠けていた. この点に留意して, とくに, オクスフォード学派「言語行為論」の立場から, 美術作品の具体的な記述の分析を行なった. その結果, 物の見え方という知覚段階が, すでに文化的コンテキストの, したがって, 見る人の母語の規定を受けていることが明らかとなった. (2) 上と同じ観点を, こんどは, 大陸の哲学, ことにハイデガーの基礎存在論について検証した. ドイツ近代の哲学では, とくに, 芸術と真理との関係が, 重要な藝術哲学上の問題になっている. 真理が, 芸術と並ぶものでもなく, 藝術の中に表現されるものでもなくて, 藝術としての真理という形をとって, 論究されている事が明らかとなった. (3) 現代の藝術研究は, 解釈学的な方向が主流になっており, その最重要問題は, 言語と藝術との関係をどう捉えるか, である. 本年度は, まず, 言語と言語以外の手段によるコミュニケーションとの比較に主眼を置いた研究が行われた. その結果, 身振りの解釈のようなものが新らしく研究課題となった. (4) (3)の研究成果に基づいて, 具体的な絵画研究の立場から, 若干の考察が行なわれた. エジプト, ギリシア, ルネサンス, バロックの諸様式において, 例えば悲しみの身振りのようなものが, どのように類型化されているかが追求された. 次年度は(4)と並んで, さらに, 東洋, 日本, 西洋中世, 等の美術品が考察される予定である.
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