Research Abstract |
歯を用いたESR線量評価法は, 長崎・広島の原爆被爆者の線量評価を行なう上で, 生体試料を直接測定する方法として研究されている. 生体試料として歯を用いれば, 個人の被曝線量を評価する上で, その歯が受けた歯科X線による被曝の評価が必要となるので, その方法について検討した. 実験では, ^<60>C_0γ線,歯科X線を空気中あるいはアクリル板経由で人歯(大臼歯)に照射し, 各歯の照射面エナメル質と反対面エナメル質を切り出して, それらをESR測定した. その結果, 歯科X線を照射した場合は, 同線量の^<60>C_0γ線の場合に比べて, 照射面と反対面の信号強度の差が大きくなる事がわかった. さらに, 実際の抜去歯を頬側と舌側に分け, それぞれのエナメル質をESR測定したところ, その信号量に大きな差がみられた事からこの歯の被曝の大部分は, 歯科の撮影によりものと推定できた. また, その被曝線量は本人の計算値とほぼ一致した. このことから, 1本の歯を頬側・舌側に分けてそのエナメル質をESR測定することは, 撮影法からのX線入射方向の問題はあるが, 歯科X線からの被曝を評価する上で有効な方法であるといえる. この方法は, X線とγ線の吸収係数の違いを利用したものであり, 自然放射線による被曝と医療被曝とを分離して評価できる可能性があることを示している. そのためには, 低線量を精度良く測定する事が重要であるが, 測定に影響を与える歯の前処理方法については, 今後検討しなければならない. ところで, 現在のESR線量評価法では, ^<60>C_0γ線で試料を照射してESR測定をくり返す方法が一般的であるが, 本実験では^<60>C_0γ線により照射の場合, ビルドアップ現象が認められており, 照射条件を規格する必要性が認められた. そのため, 現在, 歯への標準照射を実施中である. 特に歯科X線領域のエネルギーを中心として計画したが, 中性子線等についても行う予定である.
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