Research Abstract |
全体的には, 19世紀以降の文学史が対象としている「文学」の観念が, 18世紀後半から19世紀前半にかけて成立し, ロマン主義とナショナリズムの興隆と密接に結び付いていることが, 明らかになりつつある. 具体的に言えば, 「文学」は, この時期, 自然科学や社会科学はもとより, 哲学や歴史のような人文科学からも独立して, 文化の総体の中で一つの独自の領域を占めることになった. 他方, それは民族精神の典型的な発現と見なされて, 「大作家」は一国の文化英雄として称えられることになる. こうして文学史は精神史の一環となる. しかし, それ以前の「文学」は, 文字で書き表された学問, 文化の総体を意味しており, 現在の意味における文学は, 特に「美文学」BellesーLettresの名で呼ばれたが, それは, 詩と雄大の二つに大別された. とはいっても, 両者の取り扱う対象は, 狭い意味での「文学」には限定されず, 広く学問, 文化の諸分野にかかわることができた. ただしその場合でも, 作品が「美文学」であるための条件としては, 古代の傑作として承認されたものを, モデルとして, その美的基準を満またすことが要求された. そして, そのような基準に関する考察とそれに基づいて「文学」作品を生産し, さらに評価する技術の体系が, 詩学, 修辞学, 批評と考えられていたことが, よりよく理解されるようになってきた. 以上のような共通の認識の上にたって, 各分担者は, それぞれの時代の文学観と文芸用語の意味について討議と検討を重ね, その成果は, 現在刊行準備中の『世界文学大事典』(菅野が編集委員としてフランス文学と担当)の項目選定と執筆に大きく反映されている. 「航海記」という文学の境界線上にある作品の考察を通じて, 16世紀の文学観の広がりと特質が解明されつつあることも特筆に値する(二宮).
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