Research Abstract |
1.年度前半には, (1)不動産利用に関する経済分析モデルの探求, (2)従来の借地借家法諸理論の検討, (3)現在進められている法改正作業の検討, を行った. (1)については, アメリカでの研究が進んでいなかったため, 期待した成果を得られなかった. (2)(3)の作業からは, 外国の制度を素材とする従来の諸理論では, 法改正作業で議論されている問題を分析できないこと, 現在の問題は, 都市機能の急激な変化・地価の高騰・土地税制等に由来する特殊なものであること, が明らかになった. 2.以上の作業結果を踏まえて, 年度半ばから, 実態調査に移った. 具体的には, 札幌と函館で, 借地借家関係についての精通者(地主・借主団体, 弁護士, 不動産鑑定士, 不動産業者等)から, 実態に関する知見と法改正に対する要望とを, 1人4〜5時間かけて聴取した. 札幌で25名, 函館で11名から包括的で信頼できる事実を収集した. 調査の結果は, 中間報告書にまとめ(札幌地域の分は200字×280枚, 函館地域の分は200字×250枚), この報告書を検討する形で, 大学研究者・不動産鑑定士・弁護士・不動産業者と, 4度の研究会をもった. 3.以上の作業で得た知見のうち基本的なものは, 借地借家関係の多様性である. 例えば, 戦前に大土地所有が確立し, 戦後は経済活動が停滞している函館では, 地主は地代収取に専念し, 再開発を考えない. このため地主側を含めて, 今回の法改正に消極的である. そして, 地主・借地人間の主な対立は, 更新料・種々の承諾料をめぐるものである. 戦後急速に膨張している札幌では, 借地問題の現れ方はほぼ対蹠的である. しかし, 同様に膨張している東京と比べると, 札幌には権利金・借地権取引の慣行がない. 以上のような地域による多様性とは別に, 用途別による多様性も著しい. 4.今後は, このような多様性を説明する理論モデルを探求すると同時に, 実態調査を踏まえた立法論的提言を試みる.
|