Research Abstract |
海洋生物は, その種類の豊富さと多様さに加え, 未開拓な面が多いこと, および生活環境が陸上とは大きく異なることなどから, 陸上生物由来のものとはかけ離れた特異な化学構造をもち, 新規な生物活性を示す二次代謝産物の生産が期待される. 本研究において, 沖縄県慶良間諸島および八重山諸島のサンゴ礁に生息する種々の海綿動物(スポンジ)および腔腸動物(特に花虫綱:根生目, ウミトサカ目)を採集し, それらの産生する生物活性物質の探索研究を行った. また, 比較成分研究として, 南太平洋パラオ諸島産のサンゴ礁生物を入手しその産生成分の検索を行なった. その結果, 沖縄県座間味島で採集したTheonella属海綿からバフンウニの受精卵卵割阻害活性を有するテオネラペプトリドIa,Ib,Ic,IdおよびIeと命名した5種のトリデカペプチドラクトン類を単離し, これまでにIdとIeの全化学構造を解明した. いずれもDーアミノ酸やNーメチルアミノ酸の含量比が高く, N末端にメトキシアセチル基を有するなど特異な化学構造を有する脂溶性オリゴペプチドであった. これまでに, これらテオネラペプトリド類が中程度の細胞毒性を示す他, IdがNa^+,K^+ーATPase阻害活性ならびにイオノフォア活性などの生物活性を有することが判明している. また, パラオ産海綿Asteropus sarasinosumの産生成分の検索を行い, 海綿動物からは初めてサポニン成分を単離し, それらの化学構造を解明した. サラシノシドA.ナ_<1.ニ>,A.ナ_<2.ニ>,A.ナ_<3.ニ>,B.ナ_<1.ニ>,B.ナ_<2.ニ>,B.ナ_<3.ニ>,C.ナ_<1.ニ>,C.ナ_<2.ニ>およびC.ナ_<3.ニ>と命名したこれら9種類のサポニン成分は14ーノルラノスタン骨格のアグリコンを有し, 糖鎖構造中にNーアセチルグルコサミンとNーアセチルガラクトサミンを含む非常に珍しいタイプのオリゴ配糖体で, 顕著な魚毒活性とヒトデ受精卵に対する強い卵割阻害活性を示した. 今後, 採集した他の海洋生物についても引き続き, 生物活性物質探索研究を行なう.
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