Research Abstract |
島根医科大学病理学教室開講以来, 県下の高齢者の剖検例を精査し, 老年期痴呆が65才以上の高齢者においては死亡前にその3分の1に認められ, 剖検において脳血管性痴呆が50%以上を占めることを明らかにした. すなわち, 日本の高齢化社会においては欧米に比べ脳血管性痴呆が格段に多いところから, その成因と予防の研究のためモデル動物の開発を始めた. まず, 正常血圧ラットの中より血小板機能亢進を伴う系統を見出すべく, 米国NIHより24系統の近交系ラットを導入し, ADP凝集能を調べOM/NとMS20/N系が最も強い凝集能を示すことを確認した. これらの系統そのものは何らの病理学的所見を呈しないために, 脳卒中を殆ど100%発症する脳卒中易発症ラット(SHRSP)と交配し, OM/N系とのF_1雑種を得た. 重症高血圧(生後10週で200mmHg以上)を有するSHRSPに対し, OM/Nは120ー130mmHgで, F_1雑種の血圧は150ー160mmHgであり, また1uMADPに対する凝集能はOM/Nが50%に対しSHRSPは弱く5%程度であり, F_1は30%前後であった. さらにF_1同士の交配でF_2を得たところ, 血圧, 血小板凝集能は共に分離し, 前者は115ー190mmHg, 後者は20ー50%を示した. これらのF_2より血圧が比較的高めで血小板凝集能亢進のある個体と選択交配しF_3を得たところ, 血圧は145±2mmHg(平均±標準誤差), 凝集能は38±12%で, 血圧の分布はむしろ低めに, 凝集能は高めに偏りを見せた. いずれも血圧はSHRSPより低く, 凝集能はそれよりも高いが, 病理学的に血栓症を明らかに多発する傾向はみられなかった. さらにF_3より血圧が比較的高く, 血小板機能亢進がOM/N系になるべく近い個体を交配しF_4を得, 1年近くにわたって観察して来たところ, 病理組織学的に大脳皮質, 皮質下に多発性血栓症から, いわゆる"海綿状脳卒中"を呈するものが見られ, これはヒトの脳血管性痴呆に類似しており, このようにして得られた新しい系統がその有用なモデルとなる可能性がある.
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