Research Abstract |
ネオ・トミスムは, 第一次大戦のあと1920年代から, ヨーロッパを中心にさかんになった. トマス・アクィナスの哲学を現代において再興しようという運動である. 哲学でいえば, トマス哲学の基本的な研究の深化をうながし, その歴史的な意義をあきらかにして, 現在の状況のなかでトマスをよみがえらせようとした. けれども, トマスがカトリック教会の聖人で公同の天使初博士とよばれる以上, それは少くとも全カトリック教徒のあらゆる活動に支配を及ぼしえたのであり, その意味では, 大局的に見て, 哲学内部のトミスム復興というよりは, カトリック教会全体がみずからの再生をはかって, その拠りどころをトマスに求めた. と考えるべきである. ネオ・トミスムの誕生に決定的な役割を演じたのが, ローマ教皇レオ13世の回勅『エテルニ・パトリス』であり, ピオ11世の回勅『ストゥディオールム・ドゥチェム』である. いずれの背景にも, 社会的・思想的な動揺にさらされたカトリック教会の姿があるが, 同時に注目しなければならないことは, 最悪の打撃を乗り越えて復興の道をのぼりはじめた時期でもあった, という点である. 教会の最奥部では, 旧来のトミスム研究が蓄積されつつあったのである. そうした蓄積を基盤に, ネオ・トミスムは, 14・5世紀いらい忘れられていたトマスの 「エッセ」概念を再発見しはじめる. 現在に至るまでのネオ・トミスムの歴史は, したがって, 必ずしも教皇回勅による他律的な契機に依存していたのではなく, むしろ, それ自体における内的な展開と考えることができる. それは, トマスの息吹を現代に生かそうと戦い, 他の哲学と客観的な言葉で理解しあおうとする, 外にむかう傾向を有している. こうした地点から, トマスが殆ど考察しなかった芸術哲学の領域における, ネオ・トミストたちの積極的な発言が流れ出ているのである. その内容の具体的な探究が, 次年度の課題である.
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