1988 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀末および20世紀初頭における環太平洋地域をめぐる無償幼稚園運動伝播の歴史
Project/Area Number |
62510143
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Research Institution | Yamaguchi Women's University |
Principal Investigator |
松川 由紀子 山口女子大学, 文学部, 助手 (60094736)
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Keywords | 無償幼稚園運動 / サラ・クーパー夫人 / 形式的フレーベル主義 / キリスト教系幼稚園 |
Research Abstract |
1.19世紀後半、オーストラリアのシドニーには、主に英国経由で幼稚園教育方法が若干導入されていたが、広く注目されることはなかったようだ。シドニーに無償幼稚園運動の情報が入ったのは1895年のことであった。サンフランシスコのサラ・クーパー夫人を中心としたゴールデンゲイト幼稚園協会の年報に刺激されて、シドニーに無償幼稚園運動開始の機運が高まり、1896年に最初の無償幼稚園が開設された。その後10年間ほどはシカゴ出身の幼稚園教師が運動の指導者として招かれ、シドニーの幼稚園教育の基礎が固められた。 2.シカゴでは、すでに19世紀末から恩物中心の形式的フレーベル主義への批判が高まり、幼児の発達に基づく教育方法が探求されていた。こうした空気はシドニーにも影響を与えていった。 3.米国の無償幼稚園運動は、ニュージーランドやオーストラリアのみならず、日本や韓国、カナダのある地域にも伝播していったが、環太平洋地域全体にはむしろキリスト教系幼稚園の影響が強くみられたようだ。ただ、米国の無償幼稚園運動は、一般に、プロテスタント教会の自由主義的なキリスト者によって強く支えられていたので、無償幼稚園が公立幼稚園化していくにつれて、外国に活動の場を広げていったとも考えられる。 4.日本では,東京に1900年に開設された二葉幼稚園が米国の無償幼稚園運動の影響を受けた園として有名であるが、この幼稚園の開設ならびに運営は寄付によるものであった。寄付による運営が可能となったということは、慈善活動を受容するキリスト教的土壌が当時の東京にできていたと考えられる。そうしたキリスト教的土壌を婦人慈善会やキリスト教児童文学の側面から若干ふれたが、ごくわずかな探求にとどまったようなので、今後の課題として残された。
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