1987 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
62510232
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
井手 至 大阪市立大学, 文学部, 教授 (40046884)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村田 正博 大阪市立大学, 文学部, 助教授 (60140464)
毛利 正守 大阪市立大学, 文学部, 助教授 (70140415)
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Keywords | 萬葉集の本文 / 萬葉集の訓 / 本文校勘 / 異訓蒐集 |
Research Abstract |
萬葉集の本文と訓法について, 本年度は, 巻1から巻8(巻9は未了)までに見える和歌につき, 逐一検討を行った. すなわち, 本文校勘に基づく異文の比較研究と異訓の蒐集, 取捨選択を通じて, 萬葉集歌の正しい本文と訓みとの定立につとめた. 一例をあげれば, 「従千沼廻 雨曽零来 四八津之白水郷 網手網乾有 沽将堪番聞」(巻6・999)の第4句については, これを旧訓に「アミテナハホセリ」と訓んだのに対し, 「アミタヅナホセリ」(代匠記精撰本), 「ツナテホシタリ」(古義), 「アミラホシタリ(「手」を「乎*」の誤りとする)」(井上新考), 「アミテツナホセリ」(岩波大系), 「アミテホシタリ」(全註釈)等の諸零がある. しかし, その本文「網手網」(西本願寺本)は, 元来の本文である「網乎*」が「網手」に誤ったのちに, 網手の意の校異として本文に傍書された注記「網」が本文に〓入したものと考えられる. そこで第4回の本文は元の「網乎*」の形に復して付訓せられるべきものと思われ, 本文は「網乎乾有」で, 訓みは「アミヲホシタリ」を採用するのがよいということになる. また, 「百磯城乃 大宮人者 今日毛鴨 暇元跡 里亦不出将有」(巻6・1026)の第5回については, 旧訓が流布本の本文「去」によって「サトニユカザラム」と訓むのに対し, 類聚古集等はその本文「出」によって「サトニイデズアラム」と訓む. 本文の「去」と「出」との優劣は, 歌意の上から「出」を採用すべきものと思われる. 訓については, ほかに「サトニイデザラム」(古義), 「サトニイデズアルラム」(桜風社版)があるが, ここは巻5句の第5音節めの第2モーラ以外に「イデズアリ」が来るので, 単語結合体と見て, 「サトニイデズアラム」と訓むのが穏当と考えられる.
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