Research Abstract |
清朝三百年間の満洲族の治世のうちに刊行された満漢合璧体の書物として, 現在1100余種が知られている(《世界満文文献目録初稿》)1983). これらのうち, 今年度は, 17世紀後半から18世紀前半にかけての語文・文学分野の書物を主たる対象とし, 奈良の天理図書館, 京都の人文科学研究所, 東京の東洋文庫・東洋文化研究所, 長崎の長崎県立図書館などに所蔵される満漢資料を閲読調査した. 《満漢字清文啓蒙》(雍正8年, 1730序)に先立つ, 1)《大清全書》(康煕22年, 1683序), 《満漢同文全書》(同29年, 1690重刊), 《同文廣彙全書》(同32年, 1693序), 《満漢類書(全集)》(同39年, 1700序)《清文備考》(同61年, 1722序)などの語彙集/文法書, 2)《満漢詩経》(順治11年, 1654序), 《清書指南》(康煕21年, 1682序)所収の徳喜烏朱deni uju(四十頭), 《金瓶梅》(一部満漢, 康煕47年, 1708序), 《満漢西廂記》(同49年, 1710序), 《異域録》(雍正元年, 1723序), などの翻訳資料, 3)廖綸〓《十二字頭》(康煕9年, 1670序), 沈啓亮《十二字頭》(《清書指南》所収)などの音節表について検討し, そのうち, 《大清全書》・《同文全書》の漢語語彙, 廖綸〓《十二字頭》の漢語音節の, 満漢対照カードを作成した. 全体として, 《清文啓蒙》に比べると, 口語形式(助詞の「的」・「了」, r化語彙など)は多いとはいえないが, それでも, 怎麼+様了/説(《大清全書》), 甚麼(〓), 作甚麼的(以上《同文全書》)などの用例がみられる. また, 廖綸〓《十二字頭》では, 頭子音の尖音団音の区別が維持されている(eg Man, kin欽/cin親;gin今/jin津, hin欣/sin辛)が, 一方, 《大清全書》には尖団の合流をうかがわせる例(Man, hiyangci || Chin, 象棋など)も一部にみられる. このほか, 欧人宣教師の述作, 口語満洲語についても, 漢語系の語彙・音節の初歩的な検討をおこない, 満漢合璧体の子弟書若干を収集した.
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