1988 Fiscal Year Annual Research Report
アトランティコ手稿に見られるレオナルドの宇宙論の形成と発展の研究
Project/Area Number |
62510265
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
齋藤 泰弘 京都産業大学, 外国語学部, 助教授 (70115848)
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Keywords | レオナルド / ヴィンチ / ルネサンス / 宇宙論 / 鏡文字 / アトランティコ手稿 / 終末論 |
Research Abstract |
今年度の作業計画は、アトランティコ手稿の1200枚に及ぶ紙葉を、その筆跡の違いやその他の特徴にもとづいて分類し、その各グループの執筆年代を推定し、それらに記された宇宙論に関するノートをカードに書き写して、その思想的変遷を跡付けることであった。レオナルドの初期紙葉群(1470年代から1482年まで)と、第1ミラノ時代の紙葉群(1483-99年)については、昨年度中に作業が終わっていたので、今年度は1500年から1518年までの壮年期と晩年の紙葉の分類と整理に着手し、それを完了した。その作業の過程で、紙葉の執筆年代推定のための新たな指針を得ることができた。以下にその新たな年代推定法を示す。レオナルドの筆跡の変遷は、1500年頃までは顕著であるが、それ以降は書風が一定して、筆跡だけからでは年代推定が困難であり、従って主に内容から各紙葉の執筆年代が推定されて来た。しかし、筆者はレオナルドの各時期の綴字法の変遷に注目して、1500年以後の紙葉についてもある程度正確に年代推定ができることを発見した。たとえば<ca>と<cha>はいずれも「カ」と発音し、hがあってもなくても変らないので、レオナルドは恣意的に両方を用いている。だが、両者の頻度とその割合は、時代によって大きく変化する。<cha>と記した割合は、1490年頃には80%、1505年頃には65%、1508年頃にはわずか25%であった。従って、この種の綴字法の変化を調べれば、1500年以後の紙葉についても執筆年代を推定できるはずである。但し、この方法を有効に用いるには、レオナルドのその他の手稿についても綴字法を調べておかねばならないので、この課題は今後に残される。ともかくも、レオナルドの宇宙論に関するノートを集め、その内容を吟味し、彼の思想的発展を跡付ける作業は、今年度で完了したので、それをまとめて文章化することにした。
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