1988 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
62530046
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
森本 芳樹 九州大学, 経済学部, 教授 (30037105)
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Keywords | 文献史料 / 記述史料 / 古銭史料 / 銀貨 / ソリドウス / デナリウス / 現物受渡 |
Research Abstract |
中世初期文献史料の調査による貨幣使用の具体的様相の解明にあてられた本年度の成果から、第1年度に行われたヨーロッパ学界での研究動向の遺跡からの所見によって、デナリウス銀貨の民衆のもとでの受取と支払の実態までもが、明らかにされうると期待されていた。しかし、本年度の作業にかかると間もなく、それほどの成果は期待し難いことが明らかとなった。その原因は、文献史料による貨幣使用記述のあり方による・ まず当初、私が地域環境を熟知しているプリユム修道院領の文書史料を手がけたが、土地取引文書において散発的に見られる貨幣支払の言及は、すべて金額のソリドウス・デナリウス単位での指示にとどまり、貨幣使用の社会・経済的規定性を示す文言が見当たらない。同修道院の著名な所領明細帳においても、貨幣支払と現物受渡との代替関係がある程度浮かび上がるにとどまる。同修道院関係の記述史料では、時に貨幣使用の生き生きとした描写はあるものの、作者の主観的要素が入り込みすぎている印象が強く、史料批判上の困難が大きい。その後、サン・ベルタン修道院文書集とエノー伯領関係文書を紀元千年まで調査したが、事情は全く同様であった。 こうして本年度の作業では、文献史料の個別的解読によっては、この研究課題の解明は困難との、否定的成果が主となってしまった。文献史料に依存するかぎり、文書史料については貨幣言及の大量収集による定量的分析以外の有効な方法はなく、記述史料についてはヨーロッパ学界での史料批判の進行を待つほかない。しかし、史料論のレベルでは、古銭史料の決定的重要性が側面から照射された上に、文書・記述史料での貨幣経済展開を印象づける一般的文言と、貨幣使用の具体的描写の希少という対照性も浮かび上がり、今後の検討の手がかりを得た。
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[Publications] 森本芳樹: 経済学研究. 52-1〜4. 303-331 (1987)
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[Publications] 森本芳樹: 経済学研究. 53-4・5、54-1・2. 69-83、249-270 (1988)
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[Publications] 森本芳樹: 森本芳樹編著『西欧中世における都市・農村関係の研究』九州大学出版会. 91-150 (1988)
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[Publications] Yoshiki MORIMOTO.: Annales de L′Est. 5-40. 99-149 (1988)