Research Abstract |
置換基として電子供与基であるメチル基と電子吸引基であるクロル基を選んで, それぞれオルト, メタ, パラ置換体による同(II)イオンの抽出を行った. 1-オクタノールを溶媒とした場合について抽出平衡の解析を行い, 置換基の種類や位置により抽出種などに顕著な違いのあることが判った. p-メチル安息香酸と, o-およびp-クロル安息香酸の場合は, 抽出種はCuA_2のみであったが, o-およびm-メチル安息香酸とm-クロル安息香酸を用いた場合には, この単量体の他に2量体, Cu_2A_4も抽出されることが明らかになった. また, m-クロル安息香酸の場合には, 遊離の酸分子を2個付加した2量体Cu_2A_4(HA)_2も抽出されることか確認された. この化学種は脂肪族カルボン酸では, ほとんどの抽出系で最も安定した抽出種として確認されているが, 芳香族カルボン酸では, 今のところm-クロル安息香酸にしか見つかっていない. パラ置換体はメチルの場合もクロルの場合も, 抽出性が安息香酸よりも悪くなり, 抽出率が30%を越えるような領域ではエマルジョンの生成が見られる. これは, メチル, クロルいずれのパラ置換体も, 水およびオクタノールへの溶解度が, 酸自身についても銅錯体についても, 極端に減少するためであると考えられる. オルト位のメチル基は, 銅錯体の2量化を妨害しないが, クロル基の場合は, 抽出種は単量体のみであり, 銅錯体の2量化を抑制するような力が作用していると思われる. 銅錯体の単量体は上に示した, いずれの酸により抽出系にも共通に存在するが, o-クロル安息香酸銅(II)錯体のみ, その分配定数がかなり小さく, 銅錯体が水相にもかなり存在することになり, 抽出性を悪くしていることが分かった. これは, オルト位のクロル置換基が銅錯体の親水性に寄与していると考えられる. このように銅(II)の抽出が置換基の種類と位置に依存することが分かったので, さらに詳しく検討中である.
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