Research Abstract |
西南日本には, 熱帯アジアと共通する海岸湿地林マングローブなど塩生地の植生を除く), すなわちサガリバナ林, サキシマスオウ林, オオハマボウ林などが発達している. これら南方系(熱帯, 亜熱帯性)の海岸湿地林は, 西南日本が分布の北限域にあたるため, 調査研究資料が少なく, ヤブツバキクラスという植物社会学位置づけが疑問視されてきた. 本研究の目的は, これら西南日本に分布する海岸湿地林の植生調査を実施し, その群落単位の決定と上級単位との関係を明らかにすることにある. 本年度は, 西表島・石垣島など八重山群島の植生調査と琉球大学・鹿児島大学・広島大学の既発表資料の収集を行った. その結果, ヤブイバキクラス, タイミンタチバナオーダーのサガリバナ群団としてまとめられているサリバナ林, サキシマスオウ林の植物社会学的位置づけには問題があり, 再検討の必要が認められるた. すなわち, ヤブツバキクラスのヤブツバキ, アオキ, ヒサカキ, タイミンタチバナ, ミミズバイなどは, 西南日本の海岸湿地林の構成種であるが, 台湾以南の林分には見られないということである. サガリバナ, サキシマスオウ, オオハマボウを始めとするサガリバナ群団の主要構成種はヤブツバキクラスの種(標徴種, 区分種)ではなく, 熱帯アジアから西南日本まで広く分布する海岸湿地林固有の種として取り扱うべき性格と判定できる根拠が明らかになったことを意味している. ツルアダン, トウズルモドキ, シマオオタニワタリを含めたヤブツバキクラスの種は, 地域種あるいは隣接群落からの進入種と位置づけるべき性格である. 昭和62年度の成果をふまえて, 昭和63年度は, 沖縄本島, 奄美群島などの現地植生調査を実施し, サガリバナ群団など海岸湿地林の植物社会学的解明を行う予定である.
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