Research Abstract |
一般人口における犯罪発生率について見ると, 沖縄県では全国平均と比べて殺人は1.90倍, 強盗4.90倍, 傷害2.06倍, 窃盗1.25倍などと高率である. また, 精神障害者による犯罪発生率も, 全国平均の3.5倍に達するといわれている. しかしながら, 精神障害者による犯罪に関してはその実態も十分明らかにはされておらず, 行政による, あるいは医療側からも何ら具体的対策が講ぜられていない現状にある. そこで, 沖縄県における精神障害者による重大犯罪の実態を明らかにし, その対策・予防について精神医学の面から考察を加える事がこの研究の目的とされた. 昭和62年度は, まずその実態を把握する事が中心になされ, データ入手の為現地に赴き, あるいは新聞報道等について資料を整理集計した. その結果つぎのような事が明らかにされた. すなわち, 沖縄県において, 昭和58年から昭和61年までの4年間に, 精神障害者による犯罪は未遂事件も含めると殺人18件, 強盗7件, 放火17件, 傷害25件など合計103件が発生していた. これらの犯罪発生時の精神障害者の治療状況は, 治療歴の無いもの26.2%, 治療を中断していたもの35.0%, 通院中30.1%, 外泊中その他8.7%であった. これを治療中の群および治療の無いの群に分類すると, それぞれ33.0%, 61.2%となる. 全国統計との比較では, 沖縄県においては, 未治療のものによる犯行は低率(全国35.9%, 沖縄県26.2%)であったが, 治療中断者による犯行が高率(全国29.3%, 沖縄県35.0%)であった. 次年度は, これらのケースについて患者背景, 犯罪発生時の病状, 精神科医療の具体的な状況, 患者をとりまく地域社会との関連性などを調査し(1)予測危険因子を明らかにする事でその危険度を評価する方法を確立し, (2)その危険度を減少させる為の対策として, 精神医療の面から何を為すべきかなどについて考察を加える予定である.
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