Research Abstract |
ヒト胚細胞性腫瘍は幼児若年層に発症することから, 消化器, 呼吸器系の腫瘍など加令に伴い発症頻度が増加するがん腫とは異なる発症原因をもつと考えられる. 発症原因としては, 他の小児がんにみられるようながん遺伝子の構造異常や, がん遺伝子の発現の異常が考えられる. 本研究では, この両面にわたってヒト胚細胞性腫瘍継代株および患者がん組織切片を材料に解析することとし, この腫瘍においてはいかなる遺伝子の異常が発症の原因となるものか明らかにすることを究極的な目的とした. この腫瘍はその症例数が少ないため研究には, 継代化した細胞株の樹立が不可欠であり, この点も併せて研究の目的とした. 本年度, 分担者の手島はヒト胚細胞性睾丸腫瘍株3株, 継隔腫瘍1株の樹立に成功し, これらの腫瘍の病理形態学的な特徴を詳細に検討した. 研究代表者は, これら4株と手術標本11例からDNAを抽出し, サザンブロット法によって数知の発癌遺伝子の増巾, 構造異常について解析した, この結果, 継隔腫瘍1例においてN-mycの3倍程度の遺伝子増巾が認められた. しかし, H, N, K-ras, i-inyc, fins, ets, Sis, imyb遺伝子ついては構造異常も増巾もみとめられなかった. 遺伝子発現は, いずれの継代株でもN-inycの高い発現が他の腫瘍細胞に比して認められた. この腫瘍の特徴としてN-inycの発現は新しい診断マーカーになると考えられる. 抽出した継代株由来のDNAをNIH3T3細胞にトランスフェクションしてフォーカス形成能を観察したが, いずれの場合もフォーカスは得られなかった. 今後多数のサンプルについて検討が必要である. 継隔由来の継代株では, レチノイン酸によって形態学的分化がおきることが観察された. この分化に伴う遺伝子発現を検討したところ, C-inyc遺伝子の発現の低下が認められるのに対し, N-inyc遺伝子の発現は低下しないことが新たに見い出された.
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