Research Abstract |
本研究は, 同一被検者を9〜11年間にわたって縦断的に追跡し, 疾走能力や身体資源の発達の様態を明らかにするとともに, それらの発達に影響をおよぼすと思われる遺伝的要因・生育歴・日常の運動習慣などのかかわりを考察しようとするものであった. 対象者は, A大学附属幼稚園から同附属小・中学校へ進んだ男女約100名であった. 本研究で得られた知見は, 次のようであった. 1.疾走能力についてみると, 小学校期までは, 男女に有意な差は認められなかったが, 中学校期では男子の方が有意に速かった. すなわち, 12歳から14歳の50m走タイムは, 男子では8.26秒から7.62秒まで短縮され, 女子では, 8.85秒から8.64秒まで短縮された. その要因としては, 男子では, 歩数, 歩幅, 歩幅比(歩幅/身長), 最大無酸素性脚筋パワーなどに増加が認められ, ローレル指数は変化しなかった. 一方, 女子では, 歩数, 歩幅, 最大無酸素性脚筋パワーの増加は少なく, 歩幅比は減少し, ローレル指数は増加した. このことは, 男女間で身体の形と働きに性差が生じ疾走能力に影響をおよぼしたと考えられる. 2.さらに, 走成績(相対順位)を基準にして特徴的な者を抽出して事例的に観察すると次のようであった. (1) 縦断的にみて走成績が常時上位にある者は, 親・兄弟の中に陸上競技大会の代表選手になった者が多く, 遺伝的要因が関与していることが示唆され, さらに彼らはスポーツ好きで運動が日常生活で習慣化されていた. また, 肥満者やるいそう者はいなかった. (2) 走成績が常時下位にある者は, 運動に対して非好意的であった. (3) 走成績が上昇傾向にある者は, 幼少期に病弱であったが現在では回復し健康でスポーツ好きになっていた. (4) 走成績が下降傾向にある者は, 発育遅進であったり, 肥満傾向の者が多かった.
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