Research Abstract |
T4ファージ尾鞘蛋白質の高次構造と尾鞘収縮に伴う構造変化について調べるために, チロシンおよびシステイン残基の化学修飾を行なった. チロシンの場合, 計11残基のうち, 単量体および未収縮の尾鞘では, テトラニトロメタン(TNM)によって11残基(Tyr63, 73, 254, 270, 455, 460, 493, 523, 535, 569, 590)がニトロ化されたが, 後者の場合には, これらのうちTry63, 73, 254, 270の4つを除いた他のチロシンのニトロ化の速度は減少した. 一方, 収縮した尾鞘を単離して, これをニトロ化したところ, 上記11残基のうち6個のチロシン(Try63, 73, 523, 535, 569, 590)はほとんどニトロ化されなくなった. これらのチロシン残基は収縮に伴った尾鞘サブユニット分子間に隠れ, TNMが入り込めなくなったと考えられる. 残りの5個のチロシン(Tyr270, 455, 460, 493)はニトロ化され, 特にTyr270はこの状態でもよくニトロ化されることが分かった. Tyr270は尾鞘の表面に露出していると考えられる. なお, 単量体と尾鞘の状態とでニトロ化のされ方がそれ程違わないという事実は, 収縮前の尾鞘ではサブユニット間の結合面積が収縮した尾鞘の場合に較べて小さく, TNMのような低分子が比較的入り込みやすい配置をとっていることを示しており, 収縮した尾鞘が構造上極度に安定であるというこれまでの観察結果と一致する. システインについては, 計5残基(Cys377, 402, 406, 477, 607)のうちCys377, 477, 607の3残基が非還元状態でABD-F(4-(amino-sulfonyl)-7-fluoro-2, 1, 3-benzoxadiazole)によって修飾された. 残りのCys402, 406は還元状態でのみ修飾されるので, S-S結合を形成しているものと考えられる. さらに, インタクトな単量体ではCys477とCys607が修飾されるのに対して, 会合状態(尾鞘)ではCys477はほとんどニトロ化されなくなることから, Cys477はサブユニット分子間またはその近傍に存在すると考えられる.
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