1988 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
62810007
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Research Institution | National Research Institute for Cultural Properties, Tokyo |
Principal Investigator |
見城 敏子 東京国立文化財研究所, 保存科学部, 物理研究室長 (90000455)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
阿部 洋一 電機大学, 助教授
本村 豪章 東京国立博物館, 考古研究室長 (40000343)
新井 英夫 東京国立文化財研究所, 保存科学部, 生物研究室長 (00000456)
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Keywords | 遺跡 / 電子顕微鏡 / 漆膜 / ベンガラ |
Research Abstract |
紀尾井町遺跡、草土千軒の遺跡より出土した椀について、まず、電子顕微鏡で断面像を観察した。セルローズがほとんど腐食し、殼のみになっている椀と、素地がほとんど劣化していない状態のがある。前者は空気中に放置すると、徐々に乾燥し、木に付着している漆膜が剥離、膜にしわができる。後者の椀には膜がよく付着している。この事から素地が劣化しているか否かによって、漆膜の剥離状態が異なることがわかる。素地が劣化している場合、環境湿度を85%以下にはできない。また、素地が劣化していない場合でも、膜の接着力が低下し、水分の助けで素地に付着しているので、保存のためには75%位の環境湿度が必要である。 沖繩県久米島(1)、栃木県向北原(2)、北海道アヨロ遺跡(3)の各出土ベンガラを比較すると、いずれも直径1〜1.5μmのパイプ状をなしているが、中空円筒の円筒外面の緻密度が異なり、南(1)は粗く、北(3)は細かく、中央(2)が中間になっている。従って、円筒の完全度も北へいくほど高くなり、沖繩では円筒がぼやけている。これは主として気温によるもので、温度が高いほどパイプの生成が速やかなため粗く、温度が低いほどパイプの生成が徐々であるためと考えられる。温湿度データとパイプの形状との関係について、さらに多くの資料を比較検討することにより、円筒形成の機構を明らかにしたいと考えている。逆に、ベンガラの円筒形状から、その出土環境の推定も可能ではないかとも考えている。
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