1988 Fiscal Year Final Research Report Summary
中央アンデス農牧民社会の民族学的研究ーメスティソ社会とインディオ社会
Project/Area Number |
63043080
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Research Category |
Grant-in-Aid for Overseas Scientific Research
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Allocation Type | Single-year Grants |
Section | Field Research |
Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
友枝 啓泰 国立民族学博物館, 第4研究部, 教授 (40008636)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
HECTOR Espin クスコ大学, 人類学部, 助手
LUIS Millone サン, マルコス大学・人類学部, 教授
JORGE Flores クスコ大学, 人類学部, 教授
原 毅彦 信州大学, 教養部, 講師
木村 秀雄 亜細亜大学, 経済学部, 助教授 (10153206)
藤井 龍彦 国立民族学博物館, 第4研究部, 助教授 (80045260)
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Project Period (FY) |
1988
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Keywords | 中央アンデス / メスティソ社会 / インディオ社会 / 定期市 / 呪術治療 / 都市移住 / カトリシズム / 地域経済 |
Research Abstract |
申請者等は、従来南部高地のインディオ社会に焦点を当てて、中央アンデスの文化伝統・社会の基本構造を明らかにすることに努めてきた。しかし、北部高地では原住民の文化要素の多くが失われ、外来のスペイン植民地期の文化要素が卓越するメスティソ社会が成立している。中央アンデス全体を民族学的見地からの地域研究の対象とした場合、このメスティソ社会を研究の視野に取り込む必要があると考え、ペルー領カハマルカ県、クスコ県と首都リマ市において次のテーマで実地調査を行った。 (1)北部高地の定期市と地域経済の実態。(2)北部高地都市の呪術治療。(3)山岳地帯農民の首都リマ市への移住。(4)南部高地牧民社会の地域経済の実態。(5)南部高地都市の呪術治療。 その結果は次のようなものであった。 (1)北部高地では、地理的・歴史的条件によりスペイン人の入植が早かったため、先スペイン期以来の村落共同体はほぼ崩壊した。現在ではケチュア語人口もほとんど認められず、農民の多くは小土地自作農であり、村落での共同体規制が極めてゆるいこと等、南部のインディオ社会とは明らかに異なったメスティソ社会を構成している。南部高地同様盛んな定期市においては、物々交換がほとんど行われず現金取引である。定期市は、農村の産物を海岸の人口集中地へ供給する機構の一部として機能し、農民も定期市を余剰産物を売却し生活必需品を入手するための、経済的制度としてのみ利用する。 (2)北部の呪術治療師の活動にはカトリシズムと固有民間信仰の混在が認められる。治療の源泉としての「神」の力が認識されており、祭具・祈祷・呪文にカトリック要素が顕著であり、同時に、固有の民間信仰に関しては祭具の中に海・山・ジャングルの要素が混じりあっている。患者は農民に限られず、教師、大学生等、都市の知識層も含まれている。彼らは病気の過程に従って呪術治療・西洋医学を選別利用する。 (3)地方山岳地帯から首都リマへの移住は、1930年代にすでに顕著になっていたが、60年代の第2次ピーク、70年代の第3次のピークを迎えた結果、現在では国民人口の約4分の1が首都に集中している。このように、リマの人口爆発はもっぱら地方山岳農村地帯からの移住によっている。南部高地からの移住者は、同一地域出身者が集って居住区を形成する傾向が顕著であり、その場合親族・擬制親族など母村とのネットワークが保持されていることが重要である。 (4)調査地であるペルー南部高地クスコ県のパンパヤクタは、トウモロコシ耕地の喪失と牧草地の不足により、自給的ジャガイモ栽培領域に閉塞せざるを得ない状況にあった。そのため、都市(クスコ)から近い位置にありながら、かえってケチュア語などの伝統文化を保つという結果を招いた。この閉塞性のために市場への参入は不十分であり、地域経済への関与の度合は少ないが、畜産物価格の上昇と、農地改革に伴なって牧草地の確保が容易になったことにより、アルパカ飼育が活発化する状況にある。この点がパンパヤクタの地域経済への参入の道を開く可能性がある。 (5)山岳都市(クスコ)における周辺農村地帯からの移住も顕著であるが、その過程は海岸の首都リマへの移住とは異なっている。呪術治療師の盛行は都市移住現象と密接な関連があり、山岳都市住民の抱える社会・経済上の諸問題に対する"最後の救済"として機能している。 調査の結果次のようなことが明らかになった。 (1)北部高地と南部高地の村落社会を比較した場合、前者では村落社会の共同体規制が弱く、農民の市場経済への統合、およびそれに適応した価値感、行動様式が顕著であるのに対し、後者では牧畜を通して市場経済へ参入して行く可能性は認められるものの、自給経済のもとで閉鎖的共同体に組み込まれ、文化的自律性を保持している。 (2)北部と南部の都市社会における治療呪術の盛行は共通の現象であり、それがカトリシズムとアンデス伝統の宗教・呪術の両伝統を基盤にしていることも両地域に共通する。しかしながら、相対的に南部の場合は後者の伝統が卓越している。たとえば治療に際して不可欠の神々(山霊、地霊)への捧げ物は北部では全く行われない。 (3)北部高地からの移住は動機・過程・適応の局面での個人性、独立性が強く、いっぽう、南部高地からの移住者には集団性、相互依存性が顕著である。この差異は、北部・南部の母社会の構造に基づく。
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Research Products
(4 results)
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[Publications] 藤井龍彦: 季刊民族学. 45. 22-31 (1988)
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[Publications] 木村秀雄: "リスク処理・相互扶助・歴史変化ーAmareteの生産システムー" 亜細亜大学経済社会研究所, 42 (1988)
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[Publications] 友枝啓泰: "アルパカ・リャマ繁殖儀礼の歌 口頭伝承の比較研究4" 弘文堂, 110-133 (1988)
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[Publications] 友枝啓泰: "ペルーのインディオと国民的アイデンティティー 民族とは何か" 岩波書店, 261-280 (1988)