1990 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
63301007
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐々木 健一 東京大学, 文学部, 教授 (80011328)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤田 一美 東京大学, 文学部, 助教授 (60065480)
増渕 宗一 日本女子大学, 文学部, 教授 (70060663)
坂部 恵 東京大学, 文学部, 教授 (30012503)
金田 晉 広島大学, 総合科学部, 教授 (50034591)
細井 雄介 聖心女子大学, 文学部, 教授 (20054562)
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Keywords | 崇高と美 / 同一性 / 内在的解釈 / トポス / アナロジ- / 可能的世界 / 美の経験 / 志向性 |
Research Abstract |
本年度も研究成果の刊行を目途にしつつ研究発表,討論を重ねてきた。発表は何れも美の経験や藝術的なるものの体験の成立をめぐるものである。長野順子はカントの『判断力批判』における「崇高」の体系的位置づけを試みつつその契機の両義性を析出しようとした。渡辺裕は藝術体験について何がどのように論じられるべきかという観点から、最近の論争を取上げて新しい視点の提示を試みた。村山康男はビアズリ-とグッドマンを対比させ、はたして美的体験はそれ自体で充足しているものか或いはグッドマンのようにあくまでもシンボルとしての藝術作品という観点から言わば外なるものとの関係に立つものかという論点の下に両者における美的体験や藝術体験についての固定観念の危険性を指摘している。この報告はその意味で本研究のテ-マと最も原理的に関わったものである。一色裕は文献学的なプラトン研究の立場から、そもそも価値の生ずる場としての心のトポスの特異性を論じたが、この問題は形を変えてハイデガ-における存在者の存在論的位置づけにも関連してくるヘラクレイトスに始まる古くて新しい問題である。山穴晶子の論じたのは、ジャンルを異にするものの間に成立すると思えるアナロジ-の問題であり、この問題を深く掘り下げることによって美的体験のある種の還元が果されるかも知れないとの可能性を示唆した。また大石昌史は文藝作品の呈示する可能的世界への純粋志向性をインガルデンに即して論じ、作品の自己同一性と解釈における像の多様性との間の論理的緊張を明らかにし、ハイデガ-の存在論的文脈との関わりを探った。 総じて,作品の同一性,経験の純粋性、解釈の多様性と普遍性,経験の場としての〈心〉の問題など,統一主題をめぐる基本的な問題が一層深化させられた。残された問題は少くないが,同と異の弁証法的運動を引受けつつより広いパ-スペクティヴを実現してゆかなくてはならない。
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[Publications] 松尾 大: "再現と形成ーバウムガルテン『省察』§73ー" 美學. 41巻2号(162号). 1-11 (1990)
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[Publications] 渡辺 裕: "芸術解釈における作者の位置ーコミュニケ-ション理論からのアプロ-チー" 美學. 41巻2号(162号). 12-23 (1990)
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[Publications] 佐々木 健一: "引用をめぐる三声のポリフォニ-" 『現代哲学の冒険5翻訳』(岩波書店). 126-195 (1990)
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[Publications] 坂部 恵: "『かたり』" 弘文堂, 177 (1990)