1989 Fiscal Year Annual Research Report
日本最古の化石氷体(北アルプス内蔵助沢)の構造と形成に関する研究
Project/Area Number |
63302016
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
樋口 敬二 名古屋大学, 水圏科学研究所, 教授 (50022512)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川田 邦夫 富山大学, 理学部, 助手 (20019003)
対馬 勝年 富山大学, 理学部, 教授 (00002098)
小林 武彦 富山大学, 教養部, 教授 (80019257)
大畑 哲夫 名古屋大学, 水圏科学研究所, 助手 (90152230)
上田 豊 名古屋大学, 水圏科学研究所, 助教授 (80091164)
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Keywords | 化石氷体 / 氷体構造 / 氷体形成機構 / 古環境 / 周氷河現象 / 岩屑運搬 / 氷体年代 / 雪渓研究 |
Research Abstract |
本総合研究は、1)氷体堀削・資料分析班、2)氷体構造・形成機構研究班、3)周氷河現象研究班で分担して2年次計画で実施されている。 本年度は、内蔵助雪渓の縦穴が多量の残雪のため開口せず、孔内での初年度の補足的観測は実施できなかったが、初年度に採取した試料の構造、磁性などの物理的解析と安定同位体、トリチウム、化学成分などの化学分析がおこなわれた。また、雪渓内部への個体粒子の混入過程、氷河流動量を考慮した越年性氷の長期変動、化石氷体による岩屑運搬モデルなどの氷体構造に関する基礎的研究、氷体の形成にかかわる立山山域の気候条件の解析などがすすめられた。さらに、氷体から得られた結果を付近一体の古環境と結びつけるための基礎的研究として、周氷河堆積物についての地形・地質学的研究がおこなわれた。 以上の結果を総合すると、氷体の年代については、その底部層はおよそ1700〜1800年前に形成されたと考えられる。氷体の構造は、基底から13.2mの高さに不整合面があり、その上下の間で年代、氷の密度・粒径・結晶C軸方位、トリチウム濃度、酸素同位体比などのちがいとなってあらわれている。また、この付近は、6000〜7000年前頃には温暖で高山植生におおわれ、4400年前と2100年前にも周辺に植生の豊かな時期があった。そして氷体は、現在よりも寒冷な環境下で形成され、氷体底面からの融解が少ないため残存したと考えられる。氷体の形成期には流動していた証拠がいくつか見出されたので、この氷体はかつて氷河であったと考えられるが、現在も流動しているという明らかな証拠は見出されていない。 このような化石氷体にかかわる研究は、日本の雪渓研究や古環境研究に新たな視点をあたえたといえる。今後も雪渓縦穴の開口時に底面融解量の観測、流動の有無の確認、他の雪渓氷体との比較研究等を進めたい。
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Research Products
(5 results)
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[Publications] 佐竹洋: "北アルプス内蔵助雪渓のトリチウム濃度、安定同位体比と化学成分" 富山大学トリチウム科学センタ-研究報告. 9. (1989)
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[Publications] 中村俊夫 他: "北アルプス内蔵助雪渓の下部氷体中の植物遺体の加速器^<14>C年代" 第四紀研究.
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[Publications] Funaki,M.et al.: "Acquisition of natural remanent magnetization for dirt-snow involving rock dust" J.Geomag.Geoelectr.
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[Publications] Morinaga,Y.et al.: "Synoptic weather conditions associated with the ablation of a perennial snowpatch in the Tsurugisawa valley,Japanese Alps" International Journal of Climatology.
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[Publications] Yoshida,M.et al.: "First discovery of fossil ice of 1000-1700 years BP in Japan" Journal of Glaciology.