1988 Fiscal Year Annual Research Report
動物寓話のテクストと挿絵のレトリックー日本近世のイソップ物語を中心にー
Project/Area Number |
63510031
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Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
樋口 桂子 大東文化大学, 国際関係学部, 助教授 (10156573)
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Keywords | イソップ物語 / 挿絵のレトリック / 動物寓話 |
Research Abstract |
本研究は、16世紀に導入され、鎖国下でも印刷されていった『イソップ物語』の、挿絵とテクストとのレトリック上の相互関係を明らかにするものである。版本では、挿絵画家たちにとって未知であるがゆえに作家らの想像によって既知の形状を以て、日本風の背景上にコラージュされた動物たちが、やはり教訓譚としての《通り》の良さをねらって修正されたテクストに付加されているが、これら挿絵とテクストを類別、整理し(パソコンを用いてデータ分類した)、ヨーロッパの版本とも比較しながら、江戸期のイソップ物語の画像とテクストの変更、修正の方向性を捉えようとした。特に、挿絵の動物形状の変更要因として、『ヨンストン動物図譜』からの影響を跡づけようと努めた。しかし今年度、天理図書館蔵の版本数種を見て調査する限り、日本のイソップ挿絵の類型はかなり限定されたものであって、同じく江戸期の他の画像にあるほどには、『ヨンストン』は用いられていないように思われる。 テクストと画像との関わり、及びそれらの修正過程や方向性については、ヴォリンガーのイソップ、イコノロジーの研究を参考にしながら、構造分析を行った。特に、物語の変更そのものに関しては、異教の教訓談でありながら、換骨奪胎されてより日本化されていった修正過程に力点を置いて研究を進めた。 こうした研究は、具体的には『イソップ物語』の諸版本、ヨーロッパ各地のイソップ図版集、動物図鑑、博物図鑑を調べ、比較のためのモティーフ等のカード化、他の動物物語や民話等の類型的ストーリーとの比較、分類、諸文献の操作を行うことによって進められていったが、ヨーロッパに比べて、日本のイソップ変遷史には、非造形的な契機が相当大きな割合を占めていると思われる。今後、この点を一層明確化するとともに、ヨーロッパ諸版との比較も押し進めたい。
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