1988 Fiscal Year Annual Research Report
チンパンジーにおける二重分節構造をもった人工言語の習得
Project/Area Number |
63510057
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松沢 哲朗 京都大学, 霊長類研究所, 助教授 (60111986)
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Keywords | チンパンジー / 人工言語 / 見本合わせ / 記憶 / 再生 |
Research Abstract |
本年度の研究成果は、チンパンジーの言語、認知機能に関する我々の長期継続研究に基礎をおいている。以下では、現在までの研究の進展状況を概説したい。 チンパンジー・アイは「語」から「文」への階層的上昇の萌芽を示してくれた。では、「語」を「構成要素」から作りだせるだろうか。その第1段階として次のような実験をした。アイに、見本としてある図形文字を見せる。アイのキーボードには、円、四角形、斜線といった9種類の要素図形(記号素)しか与えられていない。例えば、「りんご」を表わす図形文字が見本として与えられる。アイはその文字を構成する三つの要素図形を選びだして、見本と同じ複合図形を再構成することを学んだ。さらに第2段階として、見本の複合図形の提示時間を1秒間とし、見本が消されてから再構成することを求めた。この課題をアイは難なくマスターした。記憶をもとに再構成できるのだ。 こうした訓練をした結果、「りんご」そのものをチンパンジーに見せたところ、それを表わす図形文字を記号素から構成するようになった。アイは大型類人猿として初めて、二重性を持った「言語」を習得できたといえる。 アイの実験は、現在では、食物の報酬を直接必要としないかたちで進行している。正誤のフィードバックを与えるだけで、アイは命名を習得するようになった。ホロホロという音は正解を、ブーという音は誤答を表わす。ただそれだけだ。ごほうびとしての食物は直接必要としない。アイをはじめ類人猿の習得した言語は、もちろん人間の言語とそっくり同じものではない。しかし、けっして無視できないほどの多くの共通点があるといえるだろう。
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[Publications] 松沢哲朗: 発達. 10(36). 105-113 (1988)
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[Publications] 松沢哲朗: 科学朝日. 12月号. 18-23 (1988)
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[Publications] Keikichi Hayashibe;Masatoshi Hara;Keiichiro Tsuji;Tetsuro Matsuzawa: Perceptual and Motor Skills. 67. 303-310 (1988)
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[Publications] 松沢哲朗: 発達. 10(37). 69-103 (1989)