1988 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
63510095
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
大野 道邦 神戸大学, 教養部, 教授 (20067862)
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Keywords | 「型」 / シンボル / 記号 / 構造 / 歌舞伎 / 「家」 / 幕藩体制 |
Research Abstract |
1.歌舞伎史を概観するという目的に関しては、(1)元禄、天明、化政期という時代区分は、江戸歌舞伎の成立、発展、変質の動的過程として捉えなければならない、(2)歌舞伎史の一側面を、役柄分化の複雑化(例えば敵役の中から色悪、女形の中から悪婆の再分化)としておさえ、この複雑化を徳川期身分類型社会の変質と対応させなければならない、との知見を得た。2.「型」の種類・特性・変形の解明という目的に関しては、(1)歌舞伎演劇は、その思想的内容の稀薄さにくらべて審美的形式(型)においては多様かつ細密であること、(2)「型」とは、日常的な情感や行動を「誇張化」しそれに「分節」を施して成立するのであり、それゆえ、日常の現実から「距離」をもち「自律的世界」を確立する形式であること、(3)型の変形の一因は、「家」という型の維持をめざす社会システムが政治的、経済的状況に適応して変化してゆく事態にあること、などを解明した。3.「シンボル=記号」や「構造」の概念を明確にするという目的に関しては、(1)コントの記号理論を検討することによって、単なる身振り(非意図的記号あるいはシグナル)から芸術としてのドラマ的模擬(意図的記号あるいはシンボル)への発展が、未分節的表現から分節的表現への、情動の自主的表出から感情の理想化された表現への過程で、あること、(2)レヴィ=ストロースやパーソンズの構造論を検討することによって、構造の、シンボル的・表現的側面と価値的・規策的側面を区別しなければならないこと。そのそれぞれの側面が歌舞伎の構造と社会の構造に対応すること、などを明確にした。今後は、以上の知見と成果を踏まえ、1.型のシンボル的構造と社会の価値構造との対応関係を、台帳や演技論や日本近世社会論関係の文献に拠って研究するとともに、2.型の実践者であり担い手でもある歌舞伎俳優や国立劇場研修生への面接などによって、1の作業を具体的に補充してゆきたい。
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