1989 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
63510209
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
谷川 稔 奈良女子大学, 文学部, 助教授 (90111020)
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Keywords | フランス農村の文化統合 / 規範としての文化 / 社会史研究 / カトリック教会のヘゲモニ- / イエズス会系コレ-ジュ / 古典教育 |
Research Abstract |
本年度はまず、昨年度の報告書で予告したフランス農村の文化統合をめぐる考察「司祭と教師ー19世紀フランス農村の知・モラル・ヘゲモニ-」を書き下ろした(1989年4月脱稿)。この論文は近代社会史研究会のメンバ-13名の論考とともに『規範としての文化ー文化統合の近代史』(1990年3月、平凡社)と題する共同研究論文集に収録され、その冒頭を飾っている。因みに、この論集の序文「文化統合の社会史にむけて」の執筆も報告者の担当である。そこでは、従来の社会史研究にありがちな政治史アレルギ-の不毛性を克服し、伝統的な政治史や思想史の社会的「読み替え」による歴史学の革新を提唱した。すなわち本論文集で言うところの「文化」は、政治権力の技法をも射程に収めた広義の「文化」であり、分析対象も、近代社会における規範形成のプロセスや担い手の変容が中心に据えられている。たとえば、公教育をめぐるconflict、移民の「同化」に見られるホスト文化とエスニック・マイノリティ-の葛藤、飲酒やスポ-ツなどの日常的娯楽にこめられた規範化作用の分析、といった章が柱となっている。この編集作業を通じて、「文化統合の史的展開に着目する社会史」の構想にささやかながらも一歩踏みだしえたのではないかと考える。 今年度のもうひとつの課題は、エリ-ト教育におけるカトリック教会のヘゲモニ-の分析であった。これについては、第三共和政下のイエズス会系コレ-ジュの隆盛をフォロ-し、その潜勢力の根強さを再確認した。この現象は、宗教教育をめぐる国家との葛藤というバリアを越えて、フランスのエリ-ト形成に占める古典教育のウェイトの圧倒的な大きさという事実と密接に関係していると考えられる。共和派エリ-トとカトリックとの「ねじれた共犯関係」を内包していると思われるこのテ-マについては、次年度に小論を草する予定である。
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[Publications] 河野健二,服部晴彦 他編訳: "『資料ーフランス革命』" 岩波書店, 656 (1989)
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[Publications] 二宮宏之編: "「講座ー世界史を考える」第4巻『社会的結合』" 岩波書店, 307 (1989)
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[Publications] 谷川稔 他編者: "『規範としての文化ー文化統合の近代史』" 平凡社, 510 (1990)