1989 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
63510254
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
佐々木 充 新潟大学, 教養部, 助教授 (60105228)
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Keywords | 民話の話型 / 錬金術 / 中層構造 / 隠喩 |
Research Abstract |
本年度の研究対象は『テンペスト』である。ア-ルネ・トムソンの分類による民話の話型331番は「ビンの精霊」であり、これは「(1)ある男が木等に封じ込められた魔物を解放する(2)その礼に魔力を授かる(3)男は魔物を再び木等に封じ込める(あるいは自然に返す)」という形を取る。木に閉じ込められたエアリエルと魔術師プロスペロの原型はこの話型である。また、この話型を原型とする民話いの一つに、パラケルススとメルクリウスにまつわる話がある。シェイクスピアがこのパラケルスス伝説を念頭においてエアリエルとプロスペロの話を作った可能性は否定できない。もしそうならプロスペロの原型は錬金術師であり、エアリエルは錬金術の中核にあるメルクリウスということになる。錬金術的思考によれば、物質(hyle=木)には「神の息(=霊=プネウマ)と呼ばれる第五元素メルクリウスが含まれており、錬金術師はこれを物質中から抽出し錬金の術を行う。これはプロスペロとエアリエルの関係にあてはまる。『テンペスト』の進行は「(1)嵐(2)離散(3)ファ-ディナンドとミランダの出会い(4)ファ-ディナンドの苦役とアロンゾの良心の呵責(5)和解と再会(6)エピロ-グ」となっているが、これは代表的な錬金術の過程「(1)溶解(2)分離(3)結合(4)腐敗(5)凝固(6)投射」と様式においても、用いられている隠喩においても一致する。すなわち、プロスペロは、エアリエル(空気の精=プネウス=メルクリウス)の力を用いて混沌としての「嵐」から新たな調和(コスモス)を生み出す事に成功する。このように『テンペスト』という劇は、民話的話型と錬金過程が複合的な中層構造を成しており、そこに用いられている様々な隠喩は、この構造によって組織されて表層に現れているという事が判明した。
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