1988 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
63530013
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
小川 一夫 神戸大学, 経済学部, 助教授 (90160746)
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Keywords | 貯蓄 / 予備的貯蓄 / ライフ・サイクル / 恒常所得仮説 |
Research Abstract |
日銀の貯蓄増強中央委員会が、毎年行っている「貯蓄に関する世論調査」によると、家計が貯蓄を行う目的として、常に調査家計の70〜80%が「病気・災害の備え」を選択していることがわかる。また、この傾向は、年齢に依存しないこともわかっている。我々は、この予備的動機からくる貯蓄のうち、景気の循環局面に依存して決定される予備的部分を推定する作業を行った。景気が、不況局面にあったり、インフレが激しい時期には、将来に対する不確実性が高まり安定した所得を維持するために防御的貯蓄が増大すると考えられる。我々は、この循環的不確実性に対するpercceptionが、家計により、将来所得を割り引く際に用いる主観的割引率に反映され、時間と共に変化すると考えた。その仮定のもとで、家計理論の代表的なライフ・サイクル・恒常所得仮説に基づいて、その推計を行った。実証結果によればこの割引率は第一次オイル・ショックにおいて急速に高まり、その後、次第に低下していくことがわかった。全推定期間の平均的な割引率を用いて、この期間の貯蓄額を再計算した。現実の貯蓄率と計算された貯蓄額の差は一種の循環的な予備的貯蓄に対応すると考えられる。また、循環的な予備的貯蓄を除いた貯蓄率も再計算された。その結果によると、昭和49年から51年にかけて現実の貯蓄率が予備的動機に起因して5〜6パーセント・ポイント上昇したことがわかった。より長い期間についてみても、予備的動機からくる貯蓄部分は、昭和50年代中ごろまで、重要な位置を占めていることがわかった。従って、昭和40年代後半から50年代中ごろまでの貯蓄率の変動は、オイル・ショック発生に伴う予備的動機からくる防御的な貯蓄の上昇、そしてその後の調整過程と特徴付けられる。今後は、人口の高齢化に伴うより構造的な予備的貯蓄を推定することに主眼が置かれる。
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