1988 Fiscal Year Annual Research Report
遺跡から出土した植物性炭化物等による原始古代人の食生活の栄養化学的解明
Project/Area Number |
63560069
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Research Institution | Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine |
Principal Investigator |
中野 益男 帯広畜産大学, 畜産学部, 助教授 (30111199)
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Keywords | 残存脂質 / 古代脂肪酸 / 古代ステロール / 植物性炭化物 / 縄文クッキー / 古代食の復原 |
Research Abstract |
生体成分や食品成分は環境変化に対して不安定で、千年・万年を単位とする年代を越えて残存することはこれまで考えられなかった。しかし、古代遺跡から出土した遺物中の脂質は微量ながら比較的安定した状態で残存することが判明した。この残存脂質の脂肪酸及びステロールの化学組成と現生動植物のそれと照合することで脂質の持主を特定して原始古代の動植物種を実証し、その生活環境を復原することが可能である。原始古代人、とくに縄文人の食した加工食品は、北海道・岩手・山形等13遺跡から植物性炭化物として発掘され「クッキー」・「パン」と称されている。本研究は、山形・押出遺跡の「縄文クッキー」に残存する脂質の化学的特徴から、食品素材を明らかにし、原始古代人の食生活を栄養化学的に復原することにより現代栄養学の将来を展望しようとしたものである。その結果は次の通り。 1.脂質分析から、食品素材にはクリ、クルミ等の木の実、,ニホンジカ、イノシシの肉・血液・骨髄・野鳥及び野鳥卵の動物質の物を用いていた。 2.X線マイクロアナライザー装置付き走査型電子顕微鏡による分析から、無機成分は、Ca、S、Fe、Na含量が高く、食品素材は練られていた。 3.縄文クッキーには、木の実を主体とした「クッキー型」と動物質の多い「ハンバーグ型」とがあり、いずれも上述の素材に食塩と野性酵母を加え、200〜250℃で焼かれていた。クッキー形式の違いは、季節性であろう。 4.縄文クッキーの栄養価は、100g当り400〜580Kcalとなる。成人男子の必要カロリーを1800Kcalとすると、縄文クッキーを1日12〜16個食べればよいことになり、栄養化学的にも完全食に近く、保存食としても良好。とくに、現代人に不足するミネラルは豊富であった。 これらの研究成果から、縄文人の高度な食品加工技術と豊かな食生活の実態が解明され、現代栄養学の将来への展望に大きな示唆を付与した。
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[Publications] 中野益男: 日本農芸化学会北海道支部講演要旨集. 62年. 15 (1987)
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[Publications] 中野益男: "日本列島発掘展「縄文クッキーの復元」" 朝日新聞社, 51-52 (1988)
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[Publications] 中野益男: "新しい研究法は考古学になにをもたらしたか「残存脂肪酸による古代復原」" 「大学と科学」公開シンポジウム組織委員会, 55-70 (1989)