1988 Fiscal Year Annual Research Report
人為的な寄主個体群を用いたマツカレハ卵寄生蜂の生態学的研究
Project/Area Number |
63560142
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小久保 醇 東京大学, 農学部, 講師 (10012072)
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Keywords | マツカレハ / 卵寄生蜂 / 放飼実験 |
Research Abstract |
1.茨城県鹿島郡の鹿島灘に沿った地域のクロマツ林を対象とし、13箇所の調査区を設け(南北30kmの間)、7〜8月にマツカレハ卵塊を採集し卵寄生蜂の種構成や寄生率を調査した。卵寄生蜂が卵の死亡の主要因であることは従来の知見と変わらないが、場所によっては不受精などの原因でふ化しなかった卵の占める割合が高かった調査区もあった。これは成虫の産卵・交尾期に低温・降雨の続いたことが影響していると思われた。寄生率は最も高い場合でも20%以下で、寄生率の全般的な低さは10年前とほとんど同じである。寄生蜂の種構成をみると、北ではキイロタマゴバチ、南ではフタスジタマゴバチの占める割合が高く、マツケムシクロタマゴバチのそれは全域を通じ極めて低かったが、これも10年前の調査結果と同じである。これを1960年代の寄生率30〜100%、マツケムシクロタマゴバチの占める割合20〜100%と比べると卵寄生蜂の活動状態に大きな違いがあるが、これは寄主であるマツカレハの発生が年2回から年1回に変わったことと密接な関連があると考えられる。 2.寄主の年2回発生を人為的に野外に再現させるべく、室内で生育を促進させたマツカレハを放飼し、現在野外でみられる通常の卵出現よりも早い時期にマツカレハ卵塊を得ようと試みた。第1回目の放飼(7月下旬)では室内飼育で得られた蛹を用いたが、鳥などの捕食や羽化期に続いた低温・降雨の影響(?)等により、得られた卵塊は放飼蛹数に比べて極めて少なかった。この点を考慮し第2回目の放飼(8月下旬)では老熟幼虫(一部蛹も含む)を用いたが、得られた卵塊は予想外に少なかったとはいえ、蛹を放飼するよりは効率的と思われた。いずれの場合も卵寄生蜂の寄生率は上述の野外調査の結果と同じく極めて低率であったが、とくにマツケムシクロタマゴバチは、寄生率は3種の寄生蜂のうちで最も低いとはいえ、寄主卵の出現期を通じ常に観察された。
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