1988 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
63570016
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
薄井 紀子 帝京大学, 医学部, 助教授 (50082136)
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Keywords | 精子先体胞内物質 / 卵黄膜ライシン / 化学量論的作用 |
Research Abstract |
受精に先立つ卵子保護層通過に際して、精子はその先体内に所持する卵子保護層溶解物質(ライシン)を放出する。ライシンはどのような物質なのか、どのような機構で卵子保護層に孔をあけるのか。本年度は、比較的大きな先体胞を持ち、卵黄膜ライシンもすでに単離精製されているクロアワビとバテイラ(軟体動物)を用いて、抗卵黄膜ライシン抗体を作成し、主に免疫電顕法によりライシンの作用機構を検索した。 クロアワビからは、すでに2種の卵黄膜ライシン(15.5Kと20K蛋白)を単離したが、本年度は卵黄膜を単離し先体胞物質で処理、半溶解の状態とした後、抗15.5Kと抗20K抗体を作用させ、その結合部位をプロテインAー金コロイド法で検出した。15.5Kは卵黄膜主部のゆるめられたフエルト様構造に密に分布していて、このライシンが主部に働くこと、作用後も同部域に結合していることから、その作用は酵素的ではなく、化学量論的であることなどが実証された。一方、20K抗体はどの部域にも検出されず、20Kライシンは酵素として働くことが示唆された。 バテイラの卵黄膜ライシンは1種類の蛋白で、単離した卵黄膜を著しく膨潤させる。さて、今回初めて卵巣卵の卵黄膜を超薄切片法で観察したところ、少くとも3つの異なる部分からなる複雑な構造であることがわかった。更に免疫電顕法によるライシンとの結合部位は、ライシンで膨潤する均一な層ではなく、その外表面に等間隔に並ぶ針葉樹状の構造であった。バライラライシンは卵黄膜最下層の均一な層に直接働くのではなく、先ず針葉樹状構造に作用しその結果放出される物質が下の均一な層を変化させるらしい。これまでの生化学的研究はすべて単離された均一な層のみの卵黄膜を用いて行なわれて来たから、ライシン結合部位とその作用部位が異なるという今回の結果は、バテイラライシンの作用機構の解明のための研究全般を根底から変えることになるにちがいない。
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[Publications] N.Usui.: Zoological Science. 5(6). 1251 (1988)
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[Publications] K.Haino-Fukushima.: Zoological Science. 5(6). 1251 (1988)
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[Publications] Noriko Usui.: Acta Anatomica Nipponica. 64(2). (1989)
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[Publications] 灰野和: 日本基礎生殖免疫学会抄録集. 3. 35 (1988)