Research Abstract |
〔はじめに〕プロスタグランジン(PG)は膜リン脂質の多価不飽和脂肪酸を前駆体とし,生体の各所で産生され,生理的,薬理的作用などを有している。PGは放射線などによるラジカルによっても,その産生が促進されることや,その処理により,細胞内cAMPやGSHの量が変化することなどから,細胞,組織,個体の放射線感受性に何らかの影響を与えている。今年度は,PGE_1,PGE_2,PGD_2のヒト繊維芽細胞のPLD回復に及ぼす影響を調べた。 〔材料と方法」ヒト繊細芽細胞をプラトー期までαMEMで培養し,照射1時間前に50μg/mlのPGを培養液に加えた。対照はPGの溶媒であるエタノールである(最終濃度0.5%)。PLD回復の発現は"3-day-old medium"で,5Gy照射後8時間,37℃のインキュベーションで行った。 〔結果と考察〕PGE_1は放射線防護剤として働き,照射後0時間,8時間にプレートした細胞生存率は対照に比べ,共に約3倍上昇したが,PLDR比は対照で,11.0PGE_1添加で10.4と有意の差がなかった。従って,PGE_1はPLDRには何ら影響を与えていないことになる。PGE_2は放射線感受性にも,またPLDR比が12.2と対照と有意差がなかっことから,PLDRにも影響を与えていない。PGD_2添加では,照射後0時間で細胞をプレートした生存率は,対照との差がなかったが,8時間後プレートした生存率は対照の約半分になり(PLDR比=5.6),PLDRが完全ではないが,抑制された。これらのPGは照射時のみに存在しても,対照との差が認められなかったので,PGがラジカルの除去や生成に関与している可能性は低い。PGD_2によるPLDR抑制に関しては,PGD_2は細胞内でDNAポリメラーゼαおよびβを阻害することが知られているので,PLDの回復過程を抑制している可能性がある。
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