2015 Fiscal Year Annual Research Report
元素ブロックによる高分子界面の階層的ダイナミクス制御
Publicly Offered Research
Project Area | Creation of Element-Block Polymer Materials |
Project/Area Number |
15H00758
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
田中 敬二 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20325509)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 高分子構造・物性 / 表面・界面物性 / ナノ物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
かご型シルセスキオキサン(POSS)をポリメタクリル酸メチル(PMMA)分子鎖末端に導入した元素ブロック高分子(PPMP)を任意の割合でPMMAとブレンドし、薄膜を調製した。POSSブロックの分布は、SiをマーカーとしたX線光電子分光(XPS)測定に基づき評価した。光電子の放出角を変化させることで、最表面から10 nm程度までの領域における組成を深さの関数として解析した。わずか2 wt%のPPMPをPMMAマトリクスに加えた系においても、膜最表面には約1 nmのPOSS濃縮層が形成されることが明らかとなり、その表面占有率はブレンド比に依存した。また、膜表面における対水接触角の時間依存性を測定したところ、PMMA膜表面の構造は水との接触に伴い再編成するが、いずれの(PPMP/PMMA)ブレンド膜においても、これが抑制されることを明らかとした。対水接触角の値は、ブレンド比、つまり、表面におけるPOSSの占有率によって変化した。XPS測定より推定したPOSSの表面占有率と対水接触角の値との関係は、最表面がPOSSとPMMAの二成分系であると仮定すると、Cassie-Baxterの式でよく再現できた。これより、POSSの組成を変化させることで、表面濡れ性を制御できることが示された。さらに、各ブレンド膜の重水中における中性子反射率(NR)測定により膜全体の膜厚方向における密度分布を評価した。試料を水に浸漬させ、基板側からビームを入射した。その結果、PPMPを含むブレンド膜においては、いずれも界面近傍における膨潤層の形成および膜内部への水の浸入を抑制することを明らかとした。 以上のことから、元素ブロック高分子を用いて膜表面にPOSSの濃縮層を形成することで、水に対する表面構造の安定性を保持しつつ、その表面占有率、ひいては表面濡れ性を制御できることを明らかとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、POSSを末端に有する元素ブロック高分子を直鎖状高分子とブレンドすることで、膜中におけるPOSSの導入量を変化させた。XPS測定に基づき、空気界面近傍におけるPOSSの分布状態を評価した。また、元素ブロック高分子の非溶媒、特に水中におけるダイナミクスの評価を時分割対水接触角測定と中性子反射率(NR)測定との組み合わせに基づき行った。これより、POSSが表面に濃縮層を形成する膜においては、わずかな表面占有率であっても、水との接触に伴う表面構造再編成が抑制され、界面近傍における膨潤層の形成および膜内部への水の浸入も抑制されることを見出した。水中におけるダイナミクス評価は、当初の予定では平成28年度に予定していたものであり、この点が計画以上に進展した理由である。一方で、高分子の階層的ダイナミクスに及ぼす元素ブロックの効果についての解明は今後も継続して推進していく。
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Strategy for Future Research Activity |
分子鎖末端だけでなく、主鎖中や側鎖など、任意の位置に、任意のサイズの元素ブロックを有する線形高分子や特殊構造高分子を合成する。これら元素ブロック高分子の動的損失弾性率を温度・周波数の関数として測定することで、種々の緩和過程における時定数(緩和時間)と温度の関係を評価する。バルクの測定はレオバイブロンを、また、空気・液体界面における測定は走査プローブ顕微鏡、および、時空間分割蛍光分光測定を併用する。緩和時間の対数と温度の逆数の関係(Arrheniusプロット)から、高分子の階層的ダイナミクスに及ぼす元素ブロックの効果を解明する。 さらに機能化展開の指標として、ヒト由来繊維芽細胞、マウス由来L細胞などを用いた接着試験を行う。標準的な条件下において細胞培養を行い、細胞初期接着率、および長時間培養における細胞伸展挙動を位相差顕微鏡観察に基づき評価する。この際、培地は標準的な血清含有培地に加え、無血清培地についても検討する。細胞骨格維持に寄与するタンパク質の発現量および局在は、免疫染色もしくは特異的分子をプローブに用いた蛍光標識の後、蛍光顕微鏡観察に基づき評価する。細胞接着挙動と高分子界面の構造・物性との相関について明らかにする。得られた知見を試料合成にフィードバックし、界面熱・力学物性の安定化、ひいては細胞活性の制御を試みる。
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Research Products
(12 results)