2015 Fiscal Year Annual Research Report
重力波天体の即時精密X線分光観測に向けた基盤構築
Publicly Offered Research
Project Area | New development in astrophysics through multimessenger observations of gravitational wave sources |
Project/Area Number |
15H00785
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
山田 真也 首都大学東京, 理工学研究科, 助教 (40612073)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | X線天文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
突発的なX線増光現象を素早く捉え、衛星で瞬時に観測することで、重力波現象のような希少なイベントの正体にいち早く迫る事が可能となる。必ずしも最先端の検出器を搭載した衛星でなくても、素早さがあれば、大発見に繋がる可能性があるという意味で、多様な衛星に有用な機能であるが、これまでは衛星地上間通信の困難さから、日本の科学衛星では仕組みとして確立していない。これを、既存の将来衛星DIOS(ダークバリオン探査衛星)をモデルケースとして、様々な手法の検討を行った。DIOS衛星としては、X線望遠鏡を拡大し高速姿勢制御を導入することで、銀河間高温ガスを放射と吸収の両方から観測し、領域の密度と体積を解くことに役立つ。検討した結果、1. NASAのリレー衛星は極めて高価で、専用の受信機が必要であること、2. JAXAの地上局は15周回(高度550km想定)のうち10回はどこかの局でコマンドが打てるが、即時性のためには予約が必要な事、3. 商用の S-band, X-band は運営維持経費がかかる事、4. 商用の VHF, UHF帯であれば安価だが、科学衛星の多くは赤道軌道でないため (高度 約500km, 傾斜角約30度)、地上局が大量に必要になることがわかった。これをもとに、今回はイリジウム衛星通信の適用可能性を検討した。結果、ハードウェアのサイズ、重量、宇宙実績、電力などは超小型衛星で実績があることから、十分可能性があることがわかった。高度が高くなるほど、イリジウム衛星が該当衛星を囲むビームサイズが小さくなり、可視時間が短くなる事が難しい点であるが、1日あたりの可視回数は約25分に1回程度で、約40秒の可視時間が現れる。通信可能なイリジウム衛星の数はほぼ常に1機だけであるが、姿勢情報だけを uplink することは原理上は可能なことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現実的なオプションとして、高速姿勢制御を実現する上で、ボトルネックの箇所は衛星へのアップリンク手法であると判断し、様々なオプションの中からイリジウム衛星に焦点を絞り、検討が進んだ点で、概ね順調という判断としたい。運用方法の工夫は必要であるが、原理的には実現できる可能性が高いと考えている。全世界に衛星の軌道要素は公開されており、それを用いてイリジウム衛星と DIOS とのコンタクト時間を予測し(軌道要素が1日で更新されれば、精度は1日で数秒程度。更新頻度が下がればその分精度も下がる)、DIOS衛星はそのタイミングで何度かイリジウム衛星と通信しデータ取得を行う。この場合、内之浦などで、通常衛星運用を行いつつ、突発天体が発生した時のみイリジウム通信を行うことになる。様々な衛星の姿勢や運用状況のなかで、安全に姿勢変更を行い、観測し、もとに戻せるかが肝要であり、アルゴリズム等の間違いによっては衛星に致命傷を追わせる可能性もあるため、周到な設計と、それを検証する試験方法の考案も不可欠である。時間的制約は、550km の高度の場合、約 40 秒しか可視時間がなく、高度 600km ではさらに2割程度は減る可能性があるため、その時間内にデータ受信が可能かどうか、数秒の精度で、イリジウムと衛星のコンタクトを予言し、異常なく通信ができるかどうかが検討事項になる。その他、電波関係の免許の取得に時間がかかる可能性があるなど、手続き上の懸念もあるが、日本の超小型衛星EGGが先行して実証を試みているために、免許関係の問題は解決方法が示されると期待できる。他、米国や、フランスもイリジウム衛星をもちいた通信を検討しており、国際的な枠組みで情報共有をすることも必携である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、超小型衛星の枠組みではなく、小型衛星のシステムにイリジウムモジュールを如何にして組込み、価格も安く抑え、検証や試験がやりやすい方策を見いだすことが必要である。具体的に必要なリソースの定量的な評価を進め、計算だけでなく、実機を用いた評価、あるいは、他開発者による実機を用いた試験結果を精査する必要がある。特に、送信から受信にかかる時間と、エラー率を押さえることと、エラーが起きても衛星に問題を引き起こさないシステムの検討を進める。通信システムに頼るだけのはリスクも高いため、バックアップのプランを考える事も重要である。そのため、このような通信を強化する軸ではなく、自立的に突発現象を発見し、姿勢変更を行う簡便な枠組みを検討することも進める。歴史的には、自立的に同定し、姿勢変更をする手法で成功した例は多いため、2020年代の技術で何がどこまで可能になるか検討を進める意義は大きいと考える。その際、重量、電力、サイズなどをどこまでコンパクトに収められるかが重要となる。また、新規開発項目を極力減らす努力も必要であり、既存の検出器や、過去の検出器のフライトスペア品など、日本に限らず世界から情報を収集し、実現可能性を検討する。いずれのケースも、宇宙実績を重ねることは極めて重要であり、超小型衛星の開発者と積極的に議論を行い、新しいシステムを超小型衛星で実証が進むように、協力体制を構築していくことも必要であると考えている。
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Research Products
(3 results)