2015 Fiscal Year Annual Research Report
金属間多重結合錯体のδ型d軌道による感応性発現メカニズムと触媒作用の理論研究
Publicly Offered Research
Project Area | Stimuli-responsive Chemical Species for the Creation of Functional Molecules |
Project/Area Number |
15H00940
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
榊 茂好 京都大学, 福井謙一記念研究センター, 研究員 (20094013)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 遷移金属錯体 / 触媒 / 複合分子 / 金属間結合 / 化学反応 / 小分子活性化 / 理論計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
金属多重結合錯体はこれまで結合と構造に興味が集中し、反応性や触媒作用に関する研究はほとんど行われていなかった。最近いくつかの実験化学研究が報告され始めているが、分子論的な理解や電子的過程の詳細な描像は全く報告されていない。本研究ではMo-Mo五重結合を持つ二核錯体によるσ結合活性化反応の理論的研究を行い、反応過程の電子論的解明を試みた。触媒反応にも直結する水素分子の活性化を取り上げ、DFT法およびCASPT2法で検討を行った。水素分子は2つのMo原子の一方にside-on型で配位し、次に、遷移状態を経てMo-Mo五重結合に平行になり、H-H結合の切断が進み、シス型のジヒドリド錯体を生成する。実際に実験的に単離されたトランス体は、THFのような溶媒が配位している場合に、シス体からトランス体へと異性化が進行して生成することが示された。活性障壁は低く、容易に水素分子の活性化が進行すること、それには五重結合のδ型MOが分極して、水素分子の配位とそれに引き続いて進行する切断に関与していることを明らかにした。 また、理論的研究がほとんど行われていない金属多重結合を連結した3核錯体は結合や電子状態、反応性などの基礎的知見がほとんど報告されていない。そこで、CrおよびMoの連結三核錯体のCASPT2およびDFT計算を行った。DFT計算では、正しい描像が得られず、CASPT2法で、この錯体は2核錯体に比べてはるかに静的相関が大きいことが示された。特に、δ型のd軌道の電子相関が大きい。Cr錯体では対称的な構造が安定であるが、Mo錯体では非対称構造が安定になることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Mo-Mo五重結合二核錯体の結合と反応性に関して、DFT法およびCASPT2法を用いた理論計算研究を順調に進め、金属間多重結合の特徴を解明し、さらに、水素分子の活性化反応の詳細を明らかにした。この計算結果から、類似のσ結合活性化が可能であることが予測でき、Si-H結合などの活性化反応も容易に進行可能であることを明らかにすることが出来た。 また、当初計画していなかった金属間多重結合が連結された三核錯体の構造と結合性に関する理論計算をDFT法およびCASPT2法で行い、その特徴を明らかにすることが出来、小分子との反応に応用可能であることを示した。 以上から、触媒に直接関係する小分子活性化反応について、当初予定の五重結合錯体について、予定通りの研究を行い、また、当初予定していなかった連結多重結合にも研究を進めることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
CrおよびMo五重結合錯体については、ほぼ研究は終了しているが、実験結果を一部再現していない部分があるので、それらを完成させ、これらの二核錯体の小分子活性化反応に関する全容を電子論的に解明する。 金属間多重結合が連結された三核錯体の結合性の特徴は解明できたが、結合異性体が配位子により存在するという結果を再現できていない。今後、この実験結果との一部の不一致がどのような方法論的な欠点によるものであるかを解明し、連結三核錯体の分子論的理解を完成させる。それとともに、小分子活性化反応への応用性がどの程度あるのか、理論予測を行う。 金属間多重結合とともに、最近注目されている高周期典型元素化合物の電子状態と結合性、触媒作用も理論的な理解がほとんど進んでいない。それらについても、金属間多重結合で養われた方法と経験をもちいて理論的研究を行い、触媒への応用を理論予測する。
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Research Products
(12 results)