2015 Fiscal Year Annual Research Report
遷移金属配位圏でのシリル転位を引き金とする脱カルコゲン触媒反応の開発
Publicly Offered Research
Project Area | Stimuli-responsive Chemical Species for the Creation of Functional Molecules |
Project/Area Number |
15H00957
|
Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
中沢 浩 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (00172297)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 脱硫反応 / シリル基転位反応 / 鉄カルベン錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
以前の我々の研究において、遷移金属配位圏内でのシリル基の転位を引き金とする反応により、ホルムアミドとの反応ではC=O結合切断によりアミンとジシロキサンが生成し、またチオホルムアミドとの反応ではC=S結合切断によりアミンとジシラチアンが生成する反応を明らかにしてきた。反応機構については、カルベン錯体を反応中間体とする経路を考えている。平成27年度は、反応経路についての詳細な情報を得る目的で、理論計算を行った。 CpFe(CO)(SiMe3) とジメチルホルムアミド(DMF) との反応についてDFT計算を行った。まず、DMFのC=O二重結合が鉄にハプト2-配位し、その後SiMe3基が鉄からカルボニル酸素に低い活性障壁で転位する。こうして生成したFe-C-O三員環にはひずみが存在するため、容易にC-O結合の切断が進行し、鉄カルベン錯体が生成することが分かった。ジメチルチオホルムアミドとの反応の場合は、生成するFe-C-S三員環錯体が不安定なため、活性障壁なしでカルベン錯体へ移行することが分かった。 次にFe=C二重結合にヒドロシランのSi-H結合が付加する反応の検討を行った。その結果、そのような経路は理論的には存在しないことが分かった。代わりにカルベン炭素にヒドロシランのHが、またFe-OSiMe3部分のOにヒドロシランのSiが相互作用する経路が求められ、結果的に鉄アミノメチル錯体とジシロキサンが生成する経路が求められた。このときの活性化エネルギーは20 kcal/molであった。ジメチルチオホルムアミドから導かれたカルベン錯体とヒドロシランとの反応でも同様の経路で反応が進行し、鉄アミノメチル錯体とジシラチアンが生成することが分かった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々の研究室では今までに遷移金属配位圏内でのシリル基転位反応を引き金とした、RC-CN, R2N-CN, RO-CN結合の触媒的切断反応、ならびにホルムアミドのC=O、チオホルムアミドのC=S結合の触媒的切断反応を開拓してきた。これらの結合は強い結合で、通常は切断が困難である。その強い結合を選択的に切断できるのは、遷移金属配位圏内で容易に起こるシリル基転位反応(Silyl-Migration-Induced Reaction;SiMI Reaction)に起因していることを明らかにしてきた。 そこで次に、この反応の一般性ならびに適応範囲を調べると共に、遷移金属配位圏という錯体化学、シリル基転位という典型元素化学、そして脱カルコゲン反応という有機化学の各分野にインパクトのある研究の展開を図った。 今年度はホルムアミドのC=O、ならびにチオホルムアミドのC=S結合の触媒的切断反応の反応機構について、理論計算を用いて検討を行った。反応の引き金となっているのは遷移金属からシリル基がホルムアミドやチオホルムアミドのOやS原子に転位し、その後生成する三員環の開裂を伴い遷移金属カルベン錯体となることが示された。このカルベン錯体の生成は実験において確認されていたが、計算においてもカルベン錯体を経由する反応機構がリーズナブルであることが示された。また、カルベン錯体とヒドロシランとの反応により、最終的にC=O二重結合ならびにC=S二重結合が切断され、触媒的に反応が進行する経路についても検討し、カルベン錯体のM=C二重結合部分にSi-H結合が付加する経路よりも、ヒドロシランのHがカルベン炭素に、またSiが、金属に配位しているOSiR3あるいはSSiR3のO原子やS原子と相互作用する経路で進行することを明らかにした。従って、当初の目的は達成できたと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
H27年度の研究において、ホルムアミドのC=O二重結合およびチオホルムアミドのC=Sの二重結合の切断が、遷移金属配位圏内で容易に起こるシリル基転位反応(SiMI Reaction)が引き金となり、さらに遷移金属カルベン錯体を経由して進行することを、理論計算により明らかにした。そこでH28年度はこのSiMI反応をイソシアネート(RNCO)のC=O結合切断、およびイソチオシアネート(RNCS)のC=S結合切断に応用する。現在までにイソシアネート(RNCO)やイソチオシアネート(RNCS)と種々の試薬との反応により、R-C結合の切断や、C=O結合あるいはC=S結合へ付加が進行する反応の報告はいくつかあるが、C=O結合およびC=S結合の切断に関する報告はほとんどなく、数少ない報告例も化学量論反応に関するもののみである。シリル基転位反応を引き金とした触媒的切断反応という我々が開発したコンセプトを用いて、遷移金属錯体を触媒とするイソシアネートのC=O結合切断反応ならびにイソチオシアネートのC=S結合切断反応の実現を目指す。 含硫化合物の脱硫反応を、遷移金属を用いて実現することは通常は難しい。それは硫黄原子が遷移金属錯体活性種に容易に配位して、その触媒活性を低下あるいは停止させてしまうからである。つまり含硫化合物は多くの触媒反応に対して触媒毒として働く。我々の開発した鉄錯体を用いたSiMI反応は、硫黄原子の触媒毒作用に対して耐性があることがわかってきている。従って、種々の含流化合物に対する脱硫反応に有効であると考えているので、前例のないイソシアネートおよびイソチオシアネートのC=OおよびC=S結合の触媒的切断反応を、シリル基転位反応を利用して開発していく。
|
Research Products
(36 results)