2015 Fiscal Year Annual Research Report
ラセン不斉非平面π電子芳香族化合物の合成・分子集合体と非平衡熱力学的応答
Publicly Offered Research
Project Area | pi-System Figuration: Control of Electron and Structural Dynamism for Innovative Functions |
Project/Area Number |
15H00981
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
重野 真徳 東北大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (30571921)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ヘリセン / 非平衡熱力学 / 自己組織化 / 熱的ヒステリシス |
Outline of Annual Research Achievements |
ヘリセンはねじれた多環芳香族π電子系に加えて、ラセン不斉の特徴を併せ持ち、既存の平面系化合物とは異なる性質と機能を発現すると期待される。当研究室では [4]ヘリセンの100 g単位の合成法を開発し、ヘリセンに特有の現象を示して来た。本研究ではヘリセン誘導体を合成して、新しい現象・性質を実現することを目的としている。先に私はヘリセンをスルホンアミドヘリセンオリゴマーが希薄溶液中で非平衡熱力学現象を表すことを示した。例えば、加熱冷却過程で異なる構造状態を示す熱的ヒステリシス現象である。当該年度は、スルホンアミドヘリセンオリゴマーの構造変化において、ランダムコイルA (反応物)の小さな濃度の増加がラセン二量体B (生成物)の大きな濃度増幅を引き起すことを見出した。具体的には、溶液中、Aの濃度を閾値0.5 mM濃度を超えて15%上昇させると、Bの濃度が8倍に上昇する。通常の平衡系では1.32倍にしかならない。非平衡系特有の現象であり、微小なAの濃度上昇を大きなB形成として高感度に感知した。これをもとに走化性などにおける細胞の濃度感知機能について提案した。 スルホンアミド基の代わりにオキシメチレン基で連結したヘリセンオリゴマーも合成した。P体5量体およびM体6量体の擬鏡像異性体1:1混合物のヘテロ会合体形成を検討し、固液界面でランダムコイルからヘテロラセン二量体に構造変化して、さらに固体表面上で自己組織化して繊維膜形成した。溶液中ではランダムコイル状態を保つので、固液界面に特有の現象である。加えて、この反応過程を解析して、高さ2 nm、横幅50 nmの粒子を形成した後に、この粒子から繊維が伸長することを示した。固液界面での不連続的な核形成と成長過程を含む繊維膜形成である。これまでにこのような固液界面での現象はアミロイドペプチドで知られているが、合成分子では知られていない現象である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、希薄溶液でのヘリセンオリゴマーの構造変化で、分子レベルの非平衡熱力学現象を開拓することを目指している。当該年度は、濃度変化を外部環境変化として捉えて、反応物質の僅かな濃度変化に対して生成物濃度が著しく増加する濃度増幅効果を示した。濃度の閾値と自己触媒反応による増幅効果が鍵である。通常の平衡熱力学応答と比べて反応物質濃度を鋭敏に感知する。非平衡熱力学系の新たな機能を示したものである。 加えて、ヘリセン分子の集合体の分子構造あるいは集合体構造変化も研究対象としている。当該年度は新しく合成したオキシメチレンヘリセンオリゴマーの擬鏡像体の1:1混合物がランダムコイルからヘテロに分子会合体への構造変化を経たのちに、自己集合化して繊維膜形成することを示した。また、この過程では、不連続な核形成と成長過程を含むことを示した。これは研究開始当初は予期せず見つかった現象である。このように、非平衡系および分子集合体現象ともに進展があり、おおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、昨年度に引き続き、鎖状ヘリセンオリゴマーを合成して、キラルな非平面π電子系芳香族化合物に特有の非平衡熱力学的な挙動を調べる。具体的には、以下の研究を行う。(1)ヘリセンとメタフェニレンスペーサーをアミノメチレンで連結した鎖状化合物の分子挙動を取り上げる。ヘリセン部の構造、鎖長、立体化学などを系統的に変えた化合物を検討する。これまでに、擬鏡像体1:1混合物が希薄溶液中でランダムコイル、左ラセン二重ラセン、右ラセン二重ラセンの三状態間で一方向に構造変化することを示した。ここでは、ランダムコイルから二重ラセン形成する反応が自己触媒反応であるとして説明した。これを実証する。また、本反応系では自己触媒反応によって、左および右ラセン二重ラセンが競争的に形成するものと考える。これを検討する。(2)オキシメチレン基で連結したヘリセンオリゴマーの自己組織化現象を検討する。これまでに、本化合物の擬鏡像体1:1化合物を希薄溶液中5℃で冷却すると、固液界面上でランダムコイルからヘテロラセン二量体を形成し、さらに二重ラセンが固体表面上で自己組織化して繊維膜を与えることを示した。溶液中でのランダムコイルは準安定状態であることも示した。今後は、これに機械的撹拌や超音波照射の摂動を加えた際の非平衡熱力学系の自己組織化現象を調べる。冷却時には固体表面での分子集合化が進行したが、これとは異なる分子構造、集合体が得られるものと期待している。ヘリセンオリゴマーの組み合わせ、適応範囲、機構を調べる。
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Research Products
(14 results)