2015 Fiscal Year Annual Research Report
水素結合ダイナミクスと連動するスウィッチャブルπ造形システム
Publicly Offered Research
Project Area | pi-System Figuration: Control of Electron and Structural Dynamism for Innovative Functions |
Project/Area Number |
15H00988
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
上田 顕 東京大学, 物性研究所, 助教 (20589585)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 有機伝導体 / 水素結合 / 水素-π電子移動 / 電荷不均化 / 相転移 / 立体置換基効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究者が開発した水素結合-π電子連動型の純有機伝導体に対して、その構成分子の骨格末端のアルキル基の立体効果を利用した「π造形」研究を行った。すなわち、研究実施計画に記載したように、末端アルキル基の鎖長を変えた誘導体を用いた結晶を作成し、分子間でのπ-π相互作用や分子積層様式に変調を与えることで、本物質系の特徴である水素結合を基盤とした電子物性スイッチング現象のさらなる探索を目指した。 数種類の誘導体を用いた合成検討の結果、これまでに末端エチレン基の水素原子を重水素原子で置き換えた新規類縁体結晶を得ることに成功した。結晶構造は母体と同形であったが、大変興味深いことに、物性スイッチングが起きる温度(相転移温度)が大きく(~ 30 K)低下した。放射光を用いた詳細な結晶構造解析の結果、C-D結合がC-H結合よりもわずかに短いことに起因すると考えられる結晶格子の収縮、いわゆる化学圧効果が観測され、また、この効果は異方的であることが分かった。さらに、この変化に伴い、水素結合部の構造もわずかに変化しており、量子化学計算の結果、この一見わずかな変化が、水素結合部のポテンシャルエネルギー曲線を大きく変化させ、結果として、相転移温度を低下させていることが示唆された。π電子分子骨格のサイズのわずかな違いによって、水素結合部のダイナミクスがこのように大きく変化することは大変興味深く、本系の水素結合-π電子連動現象に対する「π造形」効果を理解する上で重要な結果であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新規類縁体結晶の作成に成功し、研究目的として定めていた立体置換基効果の理解に向けた端緒を開くことができた。当初の予想よりも顕著で興味深い置換基効果が見られ、また、この実験結果を合理的に説明できる解析・計算結果も得られた。以上のことから、本研究は順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
上述したように、水素結合とπ電子の連動現象に関する大変興味深い立体置換基効果を見いだすことができたので、今後も引き続き、構成分子の化学修飾というアプローチでさらに研究を進めていく。ごく最近、分子骨格中の硫黄原子をセレン原子に置換した新規類縁体の合成にも成功しており、今後、詳細な構造解析・物性測定を予定している。 これらの新物質開発研究に加えて、物理圧の印加によって水素結合ダイナミクス-π電子の相関を変化させることも計画している。スイッチング機能の変調や圧力誘起の新規電子相の発現に挑戦する。
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Research Products
(31 results)