2015 Fiscal Year Annual Research Report
電子スピン制御技術を用いたもつれ光子対の計測実験
Publicly Offered Research
Project Area | nano spin conversion science |
Project/Area Number |
15H01012
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松尾 貞茂 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90743980)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 光学スピン閉塞効果 / 量子状態転写 / 光子電子同時検出 / 量子ドット / もつれ光子対 / 光子電子変換 |
Outline of Annual Research Achievements |
光子電子スピン変換系は量子中継器への応用だけでなく、異種量子ビット間の変換やもつれの研究を行う舞台として魅力的である。本研究では、単一光子偏光から単一電子スピンへと量子状態の転写を行えることの実証と、もつれ光子対から電子スピンと光子偏光との異種量子ビット間のもつれ状態を実現することを目標としている。 これらの目標に向け、実験を行う上で大きな問題であった光子電子変換効率の向上をめざし、まず分布ブラッグ反射構造を持つGaAs基板の光学特性の評価を行った。その結果、分布ブラッグ反射構造が設計通りに形成されていることを確認した。次に、これを用いた量子ドットデバイスの作製を行い、光子電子変換実験を行った。面内磁場下で光子電子変換効率の偏光依存性(水平偏光と垂直偏光)の測定を、電子をもたない量子ドットと一つの電子が捕捉されている量子ドットに対して行った。その結果、垂直偏光でのみ、ひとつの電子が捕捉されているドットでの変換効率が電子を持たないドットでの変換効率から顕著に減少することがわかった。これは、光学スピン閉塞効果と呼ばれる現象であると考えられる。 また、もつれ光子対を用いた実験に関しても、以下のことを行った。まず、もつれ光子対の光源作製を行い、実際に二つの光子が同時に生成されていることと、二つの光子が偏光相関を持つことを確認した。加えて、光子対の生成レートも評価した(10 kHz)。また、このもつれ光子対の片側の光子を希釈冷凍機中のドットに照射できる実験系の構築を行い、ドット中に生成される光電子と単一光子検出器で検出されるもう一つの光子の同時検出実験を行った。その結果、同時検出が起こっている兆候が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
単一光子から単一電子への変換実験に関しては、当初の計画にはなかった新たな手法である光学スピン閉塞効果の実証実験を行い、直線偏光での光学スピン閉塞効果の検証に成功していると考えている。この直線偏光を用いた単一光子から単一電子への励起過程における光学スピン閉塞効果の検証は、本研究計画の目標の一つである単一光子偏光から単一電子スピンへの量子状態転写を実証することに対応するため、本研究計画の目標達成に向けて非常に大きな前進である。 また、もつれ光子対から電子光子の同時検出を行う実験に関しては、必要不可欠なもつれ光子対の作製と光子対の生成効率の評価を行い、今後の実験を行う上で問題になると思われる光子電子変換効率や実験時間を議論する上で必要となる定量的な評価基準を得た。さらに、もつれ光子対から生成される光子と電子の同時検出実験を行い、その兆候が観測されている。これは、本研究計画の目標である光子偏光電子スピンのもつれ状態生成へと直接つながる結果である。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、単一光子から単一電子への変換実験に関して、今後は今回得られた光学スピン閉塞効果の実験結果をより確かなものとするために、まずGaAs基板の共鳴励起波長の測定を行い、軽い正孔の励起波長を特定する。現在の解析では、励起波長は計算から求めているものを用いているが、より精密な評価と議論を行うために、基板の光学特性の評価が必要である。また、量子ドット上にある遮光マスクの位置がずれている可能性があるため、この位置ずれが起きないような作製手順の確立と新たな量子ドットデバイスの作製を行う。この位置ずれは光子電子変換効率に直接大きな影響を及ぼすため、非常に重要である。 次に、もつれ光子対を用いた実験に関して、今後は今回得られた同時検出結果の兆候を確たるものとすることが必要である。まず、同時検出信号とそうでない信号との区別を明確にするために電荷検出時間の高速化を行う。そのために、現在用いているドットデバイスのゲート構造、およびメサ構造を見直し、高周波を用いた電荷検出方法に適したデバイスの設計と作製を行う。その後、同時検出実験を多数回繰り返し行い、同時検出効率を評価する。さらに、光学スピン閉塞効果と同時検出測定を組み合わせることで、電子スピンと光子偏光とのもつれ状態生成の実証が可能であるかを検討する。
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Research Products
(9 results)