2015 Fiscal Year Annual Research Report
半導体量子細線成長における金属触媒の機能の原子レベルでの解明
Publicly Offered Research
Project Area | 3D Active-Site Science |
Project/Area Number |
15H01054
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
高橋 正光 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 研究主幹 (00354986)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 量子細線 / 量子ビーム / 表面・界面物性 / 結晶成長 |
Outline of Annual Research Achievements |
次世代光・電子デバイスや高効率太陽電池などへの応用可能性から、金などの金属液滴を触媒とした半導体量子細線の成長が、近年、注目を集めている。この結晶成長において特異的なのは、金属液滴と結晶の界面が結晶成長の活性サイトとなっていることである。本研究では、放射光施設SPring-8・BL11XUに設置されている化合物半導体成長装置とX線回折計とを一体化した設備を用い、金属液滴/結晶界面の構造をその場X線回折測定した。 本年度は、まず、金触媒GaAs量子細線の構造多形形成メカニズムを調べた。GaAs は、バルク結晶では閃亜鉛鉱構造(ZB)が最安定であるのに対し、量子細線の状態では、ウルツ鉱構造(WZ)などを含む構造多形を示すことが知られている。その場放射光X線回折による結果から、(1) ZB上のWZ成長核、WZ上のZB成長核が形成するさいの高いエネルギー障壁の存在、(2)触媒液滴の形状変化が要因となるZB成長からWZ成長への変化を明らかにした。これらは、触媒界面の原子構造と触媒機能との相関を考える上で前提となる極めて有用な知見である。 次に、GaAsとの界面に誘起される金触媒中の秩序構造を調べるため、X線CTR(Crystal Truncation Rod)散乱による解析をおこなった。測定されたX線CTR散乱プロファイルには、原子レベルの層状構造に由来する強度振動が認められ、GaAs基板上のAuGa触媒液滴内に層状の秩序構造が誘起されていることが確認できた。さらに、界面構造の三次元可視化を進めている。 以上により、平成27年度の研究を通じて、金触媒GaAs量子細線の構造多形形成に関し、巨視的な熱力学的モデルに基づくメカニズムを解明するとともに、AuGa媒とGaAs基板の界面に形成される原子レベルの構造を確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、放射光施設SPring-8・BL11XUに設置されている化合物半導体成長装置とX線回折計とを一体化した設備を用い、金触媒GaAs量子細線およびInAs量子細線成長時の金属液滴/結晶界面の構造をその場X線回折測定することを計画していた。さらに、そのデータに本学術領域で展開されるモデルフリー手法の一つである表面界面ホログラフィーを適用し、界面付近の触媒液滴液体中に誘起される秩序構造を明らかにすることを目指していた。 年度途中において、必須の実験装置であるX線回折計が故障するというトラブルが発生し、実験の実施時期および予算執行に多少の変更を余儀なくされ、時間的な遅れが生じたものの、予定されていた測定の8割程度は実施することができた。ビームタイムの遅れにより完了できなかったInAs量子細線の測定は、今年度に実施できる見込みである。 表面界面ホログラフィーによる解析は、本学術領域内での研究会などを通じ、各班員の協力を得ながら進めることができた。金属液滴/結晶界面の秩序構造の存在を確認できたほか、予想していなかった知見も得られ、当初の計画以上に進んだ。 成果発表については、金触媒GaAs量子細線の構造多形形成メカニズムに関する原著論文の出版や、国際会議での発表などを通じて進めることができた。 上記のように、本研究課題は、トラブルにより一部遅れた点もあるが、一方で当初の計画以上に進捗した点もあった。遅れた部分も次年度に取り戻しの可能な程度であり、総じて、順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の研究を通じて、金触媒GaAs量子細線の構造多形形成に関し、巨視的な熱力学的モデルに基づくメカニズムを解明するとともに、AuGa触媒とGaAs基板の界面に形成される原子レベルの構造を確認できた。平成28年度はこの成果を基盤に、界面の三次元的な構造を確定し、本学術領域の理論班によるシミュレーションと連携することで、結晶と接する液体中に誘起される秩序構造に関する理解を深化させ、結晶成長メカニズムの解明につなげたい。 GaAs量子細線については、温度依存性の測定をおこない、成長条件と界面構造との関係を明らかにする。InAs量子細線についても、GaAs量子細線の研究で確立された測定・解析手法を展開していく。 なお、本研究でおこなっているヒ素化合物のMBE成長中のその場CTRホログラフィー解析は、GaAs量子細線だけにとどまらず、本学術領域内の別グループにより進められているMnAs膜のスピントロニクス研究にも非常に有効である可能性が浮上してきた。今後、同グループと連携し、MnAs成長のその場測定に応用する可能性を探る。
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Research Products
(5 results)