2015 Fiscal Year Annual Research Report
レーザー誘起相分離過程に現れる溶液内微小構造を基礎とした不斉合成反応場の開拓
Publicly Offered Research
Project Area | Application of Cooperative-Excitation into Innovative Molecular Systems with High-Order Photo-functions |
Project/Area Number |
15H01078
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
梶本 真司 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (80463769)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 相分離構造 / レーザー誘起相分離過程 / 不斉合成 / 光化学反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
27年度には、時間分解CD測定装置を構築し、レーザー誘起相分離過程にある溶液の光学活性の時間変化を調べた。また、顕微シャドウグラフ法によってレーザー誘起相分離過程における相のサイズ成長ダイナミクスの温度ジャンプ幅依存性を調べた。溶液としては300 K付近に下部臨界温度を持つ、イソブトキシエタノール(iBE)と水の混合溶液を対象とし、ナノ秒近赤外光(1.9 μm,8 ns)を照射することで急激な温度上昇とそれに続く相分離過程を誘起した。顕微画像測定の結果から、近赤外光パルスの強度が高く、温度上昇幅が大きいときには300 nm程度の微小な相が10 μ秒程度で形成する一方、温度上昇幅が小さいときには500 nm程度の相が形成するのに50 μ秒以上かかることがわかった。この結果をCahn-Hillardの線形方程式と比較しながら考察した。このような相分離過程にある溶液の光学活性の時間変化を左右楕円偏光を持ったcwレーザーを用いて調べたところ、iBE-水混合溶液では有意な光学活性を確認できなかった。一方、不斉炭素を持ったアルコールを1wt%程度加えたところ、近赤外光パルス照射によって相分離を起こし、さらに相が形成される100 μ秒付近から過渡的な光学活性が確認された。これは光学活性を持った溶質によって相分離構造が影響を受け、構造自身が光学活性を持ち、散乱過程に異方性が現れたことを示していると考えている。また、iBE/水混合溶液内のアントラセンカルボン酸にナノ秒紫外光パルスレーザーを光照射し、吸収スペクトルの変化を調べることによって二量化反応がiBE/水混合溶液においても光誘起二量化反応が誘起できることを確認した。さらに、不斉炭素を持ち分子自身が光学活性を持つ2-sec-ブトキシエタノールと水の混合溶液の相挙動を調べ、365 K程度で相分離することを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はレーザー誘起相分離過程に現れる溶液内ナノ柔構造を過渡的な反応場として、構造の光学活性を制御/利用することで新たな不斉反応を提案することを目的としている。27年度の研究では、計画どおり、まずレーザー誘起相分離過程に過渡的に現れる相構造の光学活性を調べるために、左右楕円偏光を持ったcwレーザーを用いた時間分解CD測定系を構築し、実際に測定した。相分離構造への近赤外光パルスの偏光の効果は見られなかったが、溶質として不斉炭素を持ち、光学活性を持つアルコールを添加することで、相分離過程にある溶液が過渡的な光学特性を示した。さらに、顕微画像測定の結果から近赤外光パルスの強度を変え、温度上昇幅を変化させることで相の成長過程が変化し、相サイズを制御できることを示した。また、不斉合成反応のモデル反応として考えているアントラセンカルボン酸の二量化反応が相分離を起こすイソブトキシエタノール/水混合溶液においてもナノ秒紫外光パルスを用いて誘起可能であることを確認した。これらの結果から28年度に行う予定である、相分離過程にある溶液を反応場とした二量化反応と、反応生成物の光学活性に対する相分離構造の影響の効果に関する研究の準備が充分に整っていると言え、研究の進捗状況は概ね順調であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度の研究では、まず相分離過程にある溶液内においてアントラセンカルボン酸の二量化反応を誘起し、生成物の光学活性から不斉合成の反応場としての性質について考察する。アントラセンカルボン酸と光学活性なアルコールを溶質として加えたイソブトキシエタノール/水混合溶液を試料として、温度ジャンプと相分離過程を誘起する近赤外光ナノ秒パルスと、アントラセンカルボン酸の二量化反応を誘起する紫外光パルスを一定の遅延時間をおいて照射し、相分離過程にある溶液を反応場とした二量化反応を誘起する。生成物の光学活性に対する、溶質や遅延時間の効果について調べ、反応場としての性質について調べる。特に、遅延時間の効果から相の濃度変化やサイズ成長にともなう反応場としての性質の変化について議論する。また、反応を誘起する紫外光パルスの偏光の効果についても調べる。光学活性な添加物を加えなかった際には、相分離構造に由来する光学活性は観測されなかったが、溶質であるアントラセンカルボン酸は周囲の構造・環境によって様々な光学的に異なる環境にあると推測される。励起光となる紫外光パルスの偏光によって、反応制御の可能性を探索する。また、2-sec-ブトキシエタノールなど、それ自身が光学活性を持っている分子の水溶液を反応場とした反応や相分離過程にある溶液内での重合反応などについても調べ、レーザー誘起相分離過程に現れる溶液内柔構造の不斉合成反応の反応場としての可能性について考察する。
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Research Products
(3 results)