2015 Fiscal Year Annual Research Report
散乱波の波形の時間変化を用いた地殻流体の挙動の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Crustal dynamics-Unified understanding of intraisland deformation after the great Tohoku-oki earthquake- |
Project/Area Number |
15H01135
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
小菅 正裕 弘前大学, 理工学研究科, 教授 (90142835)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 地震波形 / 散乱 / 時間ゆらぎ / 地殻流体 / 異方性 |
Outline of Annual Research Achievements |
2011年東北地方太平洋沖地震後、秋田県森吉山付近での誘発地震活動が活発になった。誘発地震の波形に見られる後続波はS波の散乱波と考えられ、散乱体が地殻流体の貯留域となっている可能性がある。散乱波の到達時刻が時間とともに変化しているように見えることは、散乱体が流体であることを示す重要な証拠となる可能性があることから、本研究では、時間ゆらぎが確たる観測事実であることを示すことと、ゆらぎをもたらす要因とそれが生じた場所を特定することを目的としている。 平成27年度には、誘発地震震源域の直上付近の2箇所に臨時地震観測点を設置して観測を開始した。既存データの解析においては、地震波形の相互相関係数を基に地震をグループに分け、各グループの地震に対して、定常観測点の波形の時間変化図を作成した。その結果、後続波の出現の有無・形状・振幅は地震グループの位置に依存することが判明した。後続波の波形の時間変化は、緩やかな場合と比較的急激な(~10日以内)場合がある。それらと震源位置の時間変化は明瞭に対応しているようには見えないので、変化は散乱源側で生じていると考えられる。また、後続波が2つの波群から構成されている場合があるが、2つの波群の波形相関は良くないので、2つの波群の成因は同じではないことも明らかになった。 27年度にはそれに加えて、同じ領域でのS波偏向異方性についても調べた。解析の結果、異方性は震源域を通過する経路において生じていると考えることが妥当であることがわかった。異方性は震源よりも上に存在する媒質の状態を反映するので、振幅ゆらぎの原因が経路のどこで生じているかを考える上での検討材料となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、 (1) 既存データの詳細な解析と、(2)散乱体分布の空間分解能を上げるための臨時地震観測及びそのデータ解析を行うことにしている。 このうちの(2)については、臨時地震観測を開始した。冬季間はデータの回収ができないので解析はまだ行っていないが、それは当初の計画通りである。 (1)については、波形相関を用いた地震群分類、地震波形の時間変化の検討、及び波形の時間変化が生じた位置の推定を行うこととしていた。このうち、地震群分類と波形の時間変化の検討のための図の作成は、当初の計画通りに行うことができたが、既存データのうちの臨時観測点のデータについては処理が終了していない。そのこともあり、波形の時間変化が生じた位置の推定は、当初の計画通りには進んでいない。 一方で、当初の計画には含めていなかったS波偏向異方性の解析を行った。この解析により、誘発地震の震源域に異方性が存在し、誘発地震活動が地殻内の不均質性を形成していると考えられることが判明した。これは、散乱波の波形の時間ゆらぎの原因を考察する上で有用な材料となる成果である。 以上を総合して、進捗状況はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、 (1) 既存データの詳細な解析、(2)臨時地震観測及びそのデータ解析、及び(3) S波偏向異方性の解析を通して行う。 (2)については観測を継続し、回収したデータを順次(1)と(3)の解析に組み入れていく。 (1)については、27年度よりも長期に渡って、また、臨時観測点のデータについても、波形相関を用いた地震群分類と、地震波形の時間変化の検討を行う。波形の時間変化が生じた位置の推定は、変化が生じた場所と変化量をグリッドサーチから推定する。すなわち、速度が変化した位置と速度の変化量を仮定し、散乱波の到達時刻の観測値と計算値の残差二乗和が最小となるような(速度変化位置、速度変化量)をグリッド・サーチによって求める。散乱体の位置の変化についても同様な手法を用い、地震波速度と位置のどちらか、または両方を考える必要があるのかを検討する。それに加えて、既存のアレイ観測データから散乱源の位置の時空間変化を推定し、グリッドサーチの結果の妥当性を評価する。 (3)についても臨時地震観測のデータを加えて、S波偏向異方性の時空間変化を求め、異方性の原因が応力場を反映したクラックなのか、地殻流体の配列によるのかを検討する。 最終的には、地殻流体の分布量の時間変化のような、地殻の媒質特性の推定につながるような定量的な結果を得ることを目標とする。
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Research Products
(2 results)