2015 Fiscal Year Annual Research Report
スピロヘータ運動の変形と力学
Publicly Offered Research
Project Area | Harmonized supramolecular machinery for motility and its diversity |
Project/Area Number |
15H01307
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
中村 修一 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90580308)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | スピロヘータ / 運動 / べん毛 / 多型変換 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、細胞の内部にべん毛を持つらせん形細菌スピロヘータ(レプトスピラ)の推進力発生機構の解明を目指すものである。平成27年度には,当初予定した下記1-4に加え,研究4に関連し平成28年度に実施予定であった「運動変異体の解析」の一部を前倒しして行った。 1.ペリプラスムべん毛の構造解析:本実験は、レプトスピラべん毛を単離・精製し、べん毛の多型変換を顕微鏡下で解析するものである。直径約25nm のレプトスピラべん毛の変形を詳しく観察するため、高感度sCMOS カメラと高輝度水銀ランプを備えた暗視野顕微鏡システムのセットアップを完了させた。 2.力学バランスの実験的検証:コイル状菌体(Protoplasmic cylinder, PC),らせん状前方末端(Spiral end),鉤状後方末端(Hook end)という,1細胞内に同時に観察される3つの回転がいかに互いに影響し合うかを明らかにするため,フレームレート500 Hzで撮影したレプトスピラの暗視野顕微鏡像をもとに各部位の回転方向と速度を同時に解析し,部位間の相互相関解析を行った。その結果,PCとHook endの間に強い相関があることが分かった。この結果はSpiral end回転の逆トルクの存在を示唆し,実験3の意義をより強く支持することとなった。 3.細胞表面の動態解析:菌体外膜の回転をSpiral endの発生トルクとバランスするカウンタートルクの候補と考え,その回転の可視化を試みた。菌体表面のLPSを標的として,抗体を介して直径40nmの金コロイドを標識することができた。しかしながら,標識効率が低く,菌体外膜の回転を可視化するには至らなかった。 4.べん毛および走化性変異体の作製:トランスポゾンを用いたゲノムワイドなランダムミュータジェネシスに成功し,べん毛の形態に異常が生じた変異体が単離できた。28年度に実施予定であった変異体解析の一環として,異常分子を転写レベルで野生型と比較するため,RNAseq解析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の大きな成果として,Hook end回転とPC回転の相関が明らかになったことが挙げられる。この結果は,レプトスピラ菌体の両末端に相当するSpiral endとHook endの間に相関があるのではないか,という研究開始当初の予想と反するものであったが,外膜回転の存在の可能性を示唆し,複雑な運動調節機構の解明に大きく近づく手がかりとなることが期待された。 興味深いべん毛変異体が得られたことも大きな成果である。野生型べん毛はコイル状に湾曲しているが,ランダムミュータジェネシスによりスクリーニングされたこの変異体のべん毛は直線に近い可能性が示唆され,この形状異常の原因解明は,べん毛の形状形成と変形の分子メカニズムの解明につながることが期待された。この成果を踏まえ,2年目に実施予定であった変異体解析の一部として,網羅的RNA解析を実施するなど,予定したよりも大きな進展が見られた。 レプトスピラべん毛モーターの入力エネルギーはプロトン駆動力であると考えられてきた。しかし,本研究の運動解析によって,レプトスピラべん毛モーターが,プロトンだけでなく,ナトリウムイオンも同時に利用できる可能性を示唆する結果が得られた。この成果は申請時には予想していなかったものであるが,レプトスピラの運動機構解明に大きく貢献するものである。 以上より,当初の計画以上の進展が見られたと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度には,外膜の回転計測,べん毛の多型変換解析,変異体の構造解析を行う予定である。 27年度に得られたトルクバランスに関する成果は,外膜の回転の存在を改めて強く示唆するものである。現在,外膜に対して抗体を介して金コロイドを標識する実験を試みているが,外膜の回転を観察するには至っていない。今後は,蛍光色素を菌体全体に標識することにより,流動的と予想されている外膜の動態を「流れ解析」の要領で計測することを試みる。 多型変換については,27年度に構築した光学計測システムを用いて,べん毛の形状解析を行う。より効率的なべん毛精製技術の構築のため,界面活性剤の検討など,プロトコールの改良も行う。 27年度に得られたべん毛変異体の網羅的RNA解析の結果をもとに,べん毛の構造・機能解析を行う。走化性変異体の作製にも一部成功しているため,得られた変異体の機能解析も行う。
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Research Products
(6 results)