2015 Fiscal Year Annual Research Report
ショウジョウバエ求愛行動の経験依存的指向性シフトの神経基盤の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Mechanisms underlying the functional shift of brain neural circuitry for behavioral adaptation |
Project/Area Number |
15H01412
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小金澤 雅之 東北大学, 生命科学研究科, 准教授 (10302085)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ショウジョウバエ / 経験依存的行動可塑性 / 求愛行動 / 攻撃行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 攻撃行動の司令ニューロンの探索 求愛や攻撃などの性差を示す行動の実現には性的二型神経回路が中心的な役割を果たしている事が近年認識されつつある。キイロショウジョウバエ神経系の性差形成にはfruitless (fru) とdoublesex (dsx)の両遺伝子が重要である。我々はfru発現ニューロンのうちP1と名付けられたニューロン群が、求愛行動解発の中核として機能している事を明らかとしてきた。本研究において平成27年度はもう一つの異なる性的二型行動である攻撃行動の解発に関わるニューロン群を探索した。温度感受性チャンネルdTrpA1の異所的発現を利用した温度遺伝学(Thermogenetics)を利用して特定ニューロンの神経活動を操作した個体において攻撃行動の誘起を解析した結果、dsx発現ニューロンのうちpC1と名付けられた一群のニューロンが求愛と攻撃両行動の解発に関わっている事が明らかとなった。 2. 求愛・攻撃行動の経験依存的変化をもたらす原因ニューロンの探索 米国のBakerらの研究グループが報告した経験依存的求愛行動の変容は、集団飼育する事により通常は求愛行動を示さないfru突然変異体が求愛するように行動を変化させる現象である。平成27年度は異なる複数のfruアリルを用いてこの現象の確認を行い、神経回路操作に適したfruアリルの組み合わせを探索した。さらに単独飼育時と集団飼育時の体表フェロモン組成を野生型個体とfru突然変異体で測定した。野生型とfru突然変異体では元々のフェロモン組成に違いがあることが分かり、特に求愛行動に関わる(Z)-7-tricosene (7T), (Z)-7-Pentacosene (7P),の量がfru突然変異体では多かった。また集団飼育によってfru変異体では7Tの量が減少していることが明らかとなった。7Tは通常求愛行動を抑制する事から、fru変異体での7Tの減少は経験依存的求愛行動の解発に関わっている可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、分子遺伝学的ツールの駆使できるショウジョウバエをモデルとして、(1)生得的行動と考えられている求愛と攻撃の解発・調整の神経機構の解明を行い、さらに(2)新たに見出された「求愛・攻撃行動が経験によって可塑的に変化する」という現象の原因が神経回路のどのレベルでの機能的適応に基づくものであるのかを明らかとすることを目的としている。前者の項目については想定以上の結果が得られ、経験依存的行動可塑性の神経基盤を探る上でのターゲット回路が絞り込めた。具体的にはdsx発現pC1ニューロン群が求愛と攻撃の中枢であることが示され、 fru発現LC1およびmALニューロン群が求愛と攻撃の切替に関わっている事が示された。一方、求愛・攻撃行動の経験依存的変化をもたらす原因ニューロンの探索に関しては、当該現象の確認および外的要因や神経系の機能以外の要因の解析が中心となり、神経回路上での基盤の解明には十分迫れなかった。平成27年度に求愛と攻撃に関わるニューロン群が明らかになった事から、ここを足がかりとして研究を進める。研究計画全体を通しては、おおむね順調であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
経験依存的行動変容に生体アミンによる修飾システムが関与している可能性が浮上してきたため、その解析に力を入れる。また、これまでは行動学的な実験を集中して行ってきたが、今後は経験依存的な求愛行動が発現しているときのニューロン活動の生理学的解析にも力を入れる。 平成28年度は具体的に次のような課題に取り組む。 A. 求愛・攻撃行動の経験依存的変化をもたらす原因ニューロンの探索:集団飼育による経験依存的な性行動の変容は、求愛や攻撃の司令ニューロンシステムの活動性の可塑的な変化に基づくという仮説を立て、1) 行動可塑性を脳内で駆動するものとして、セロトニンやドーパミンなど生体アミンシステムやニューロペプチドシステムによる修飾に注目し、突然変異体等を用いてこれらのシステムの行動可塑性への影響を解析し、2) 行動可塑性の出力側のシステムとして、求愛/攻撃行動の司令ニューロンに注目し、これらのニューロンの強制活性化・抑制等の神経活動操作が集団飼育という経験を代償できるか解析する。さらにこれら二つのシステムの相互作用の結果として行動可塑性が実現出来ることを検証する。 B. 求愛と攻撃の司令ニューロンおよびスイッチングニューロンの機能解析:平成27年度に見出した、求愛と攻撃の司令に関わるdsx発現pC1ニューロン、および求愛と攻撃のスイッチングに関わるfru発現LC1ニューロンとmALニューロンに着目し機能解析を行う。トラックボール上で自由行動する個体からの脳内Ca2+イメージング技術を用いて、これらのニューロンの求愛解発刺激・攻撃解発刺激に対する応答特性を解析する。さらにこれらのニューロンの応答特性が経験によりどのように変化するのか解析する。
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Research Products
(21 results)