2015 Fiscal Year Annual Research Report
行動適応における海馬場所細胞の再生パターンの解析
Publicly Offered Research
Project Area | Mechanisms underlying the functional shift of brain neural circuitry for behavioral adaptation |
Project/Area Number |
15H01417
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐々木 拓哉 東京大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (70741031)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 海馬 / 神経回路 / マルチユニット記録 / 空間ナビゲーション / 局所場電位 |
Outline of Annual Research Achievements |
まずは、動物の行動パラダイムを確立するため、八方迷路に加えて、複数の選択肢が存在するような複雑な迷路課題をマウスに解かせる検討を行った。具体的には、ある特定の位置にマウスを置き、特定の位置の報酬にたどり着くまでの軌跡を調べた。その結果、まったく同じ課題でもマウスが迷路課題を学習する期間には大きな個体差があり、この期間の長さは、課題初期に探索行動を多くするほど短いことがわかった。すなわち、課題の初期に失敗するほど、成功に辿り着くまでの時間が短いことが明らかになった。また、クラスター解析を用いることで、初期の探索行動パターンから、その後の学習成績を予測できることを見出した。こうした大規模な行動データの解析結果は、過去に先行研究が少なく、Scientific Reportsに最近受理され(Igata, Sasaki*, Ikegaya*, 2016)、メディアでもプレスリリースされた。 また、脳活動の計測技術を確立するために、マウスやラットにおいて、動物の頭部に慢性的に設置できる電子回路基板を作成し、数十本の脳波測定用テトロード電極を脳に埋め込んだ。手術の訓練や電極位置の実験検討を繰り返し、現在では、ほぼ確実に神経電気信号の大規模測定が可能となっている。本方法論は、現在1つの論文としてまとめ、Journal of Pharmacological Science誌に投稿中である。また、確立した脳波計測法の有効性を検討するため、脳が低還流状態に陥った際の局所場電位変動を調べた。その結果、大脳新皮質と海馬では、低還流状態に対し、異なった電気的応答の時間変化を示すことを見出した。本研究成果は、Neuroscience Research誌に掲載された(Nishimura et al, 2016)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目標は、神経活動を同時記録する大規模マルチユニット計測を構築し、動物が行動設計や適応行動などを示すときに、海馬の細胞群がどのような活動を生じるか解明することである。この目標に向けて、まずは複雑な選択肢を有する迷路課題が完成したことで、動物の探索行動や意思決定、行動適応を調べるための実験パラダイムが確立された。同時に生理学的手法の開発に取り組み、海馬領域に多数の電極を埋め込む手術法、および記録ノウハウを確立した。ここでは3Dプリンターを用いて、独自の電極ドライブを作成し、現在までに最大24個のテトロード電極を有するドライブが作製できている。これを用いて、場所特異的に活動する海馬の場所細胞の記録に成功し、様々な迷路課題中の神経活動を計測し、その結果を解析するに至っている。しかし、これまでの記録神経細胞数は10個程度である。まだ電極の設置などについては検討の余地が残っており、これを工夫することで、100細胞程度まで同時記録が可能になると見込まれる。また、同時に神経細胞を光操作するための光遺伝学的手法の確立も進めている。ラットはマウスと比べて、光操作が困難であるとされているが、遺伝子発現は確認できており、脳波計測と融合させ、実際の作動を確認していく段階に進んでいる。光ファイバーと電極ドライブを融合させる工作にも取り組み、おおむね形状は完成しつつある。次年度は、当初の研究目的の土台となる実験技術が構築できたことで、残りの研究期間内で新規の知見が得られるものと期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、動物の行動に関連した海馬の発火パターンを明らかにすることが第一目標であるが、さらに動物の行動の因果関係を直接検証する実験系の構築にも取り組んでいきたいと考えている。ラット海馬から十数本のテトロード電極を用いて神経活動を計測する方法はほぼ確立できたので、これを基に海馬場所細胞の記録を行う。2方向の選択が必要な迷路を用いて、感覚刺激-経路設計の連合課題を行う。この課題では、スタート位置にて3秒間程度の感覚刺激がキューとして与えられ、これを参照しながら特定の経路を辿ってゴールに着けば報酬が得られる。感覚刺激は経路に対応した2種類が提示され、動物はこの連合性を学習する。数週間の訓練を経て、正解率が7割程度を超えたら、訓練完了とみなし、電極を脳に埋め込む手術を行う。数週間かけて、可能な限り多数の電極を同時に海馬に到達させ、課題遂行時の神経細胞の活動パターンを記録する。記録された信号にスパイクソーティングを行い、各場所細胞の受容野の推定、およびキュー提示位置における脳波の解析(シャープウェーブリップル波を想定)、および場所細胞の同期発火パターンを同定する。このような解析処理を数十分で完了させ、その解析に基づいて、同じ細胞が記録されている同日中に、フォードバック介入の実験を行う。具体的にはキュー提示中に生じる予測的な脳波や同期活動が生じた際に、電気刺激あるいは光刺激などの外乱を加える。想定される結果としては、特定の発火列に介入した時にのみ、連合課題成績の低下がみられると考えている。こうした結果は、個々の神経細胞の発火パターンと、将来の予測や行動適応など脳機能との因果関係を直接的に証明できる研究成果になると期待される。
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