2015 Fiscal Year Annual Research Report
大脳基底核変性疾患における回路変動と不随意運動出現の因果関係
Publicly Offered Research
Project Area | Mechanisms underlying the functional shift of brain neural circuitry for behavioral adaptation |
Project/Area Number |
15H01458
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Research Institution | National Institute for Physiological Sciences |
Principal Investigator |
佐野 裕美 生理学研究所, 統合生理研究系, 特任助教 (00363755)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 大脳基底核 / パーキンソン病 / 光遺伝学 / ジスキネジア / 不随意運動 / 随意運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
大脳基底核神経回路の代表的な疾患としてパーキンソン病が挙げられる。パーキンソン病は黒質緻密部のドーパミン作動性ニューロンの変性に起因し、パーキンソン病の治療にはL-DOPAの投与が有効である。しかし、長期のL-DOPA服用によりジスキネジアと呼ばれる不随意運動が生じる。これは、長期のL-DOPA服用により大脳基底核の動態が変化した結果、不随意運動の出現という機能シフトが生じた結果であると考えられる。そこで、薬剤誘導性のパーキンソン病モデルマウスを作製し、このマウスにL-DOPAを慢性投与してジスキネジアを誘発した。そして、このマウスの大脳基底核から神経活動を記録し、L-DOPA誘導性ジスキネジアにおける大脳基底核神経回路の動態変化の解明を試みた。大脳基底核の出力核である黒質網様部から神経活動を記録したところ、自発発火は正常なマウスとほとんど同じであった。ところが、大脳皮質運動野を電気刺激して大脳皮質から大脳基底核の入力を模倣したときの応答を記録すると、正常なマウスとは異なる応答パターンが認められた。 一方で、ドーパミン作動性ニューロンの入力部位である線条体において、投射ニューロンに光駆動性イオンチャネルであるchannelrhodopsin-2(ChR2)を発現するトランスジェニックマウスを利用して、光遺伝学により、線条体投射ニューロンの神経活動操作を行った。線条体に青色光を照射すると線条体投射ニューロンの興奮が認められた。さらに、自由行動下で線条体に青色光を照射すると、光照射に応じてL-DOPA誘導性ジスキネジアと類似した行動が出現した。そこで、線条体に光照射したときの黒質網様部における神経活動の変化を記録した。その結果、黒質網様部では抑制とその後に弱い興奮が認めら、L-DOPA誘導性ジスキネジアマウスの大脳皮質を電気刺激したときの黒質網様部での応答と類似していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H27年度は、薬剤を用いたパーキンソン病モデルマウスの作製と、このマウスを利用したL-DOPA誘導性ジスキネジアの誘発、およびこのマウスからの神経活動記録を計画していた。また、一方で、光遺伝学を利用した大脳基底核の神経活動操作も計画していた。 6-OHDA(6-hydroxydopamine)を用いたパーキンソン病モデルマウスの作製およびL-DOPA投与によるジスキネジアの誘発は、論文を参考にして標準的な方法を用いることにより順調に進展した。また、ジスキネジア誘導時の神経活動の記録においては、淡蒼球外節、淡蒼球内節、黒質網様部からの記録を行っており、淡蒼球内節および黒質網様部は神経核が小さいため、記録を行う神経細胞の数を増やすために今後も継続して神経活動の記録を行う必要があるが、淡蒼球外節からの神経活動は十分に記録することが出来た。 また、光遺伝学を利用した大脳基底核の神経活動操作においては、線条体投射ニューロンにChR2を発現するトランスジェニックマウスを用いて、線条体への光照射で線条体投射ニューロンの興奮を誘導し、このとき、光照射に応じてジスキネジアに似た運動が誘発されることが観察できた。この行動変化には十分な再現性があったため、行動と神経活動の関係を明らかにするため、このマウスの淡蒼球外節、黒質網様部から神経活動を記録した。記録を行う神経細胞の数を増やす必要はあるが、光照射に応じて、淡蒼球外節では「抑制-興奮」という一過性の応答パターンが得られた。大脳基底核の出力核である黒質網様部においては「抑制-弱い興奮」という一過性の応答パターンが認められる傾向が明らかとなった。 この進捗状況は、L-DOPA誘導性ジスキネジアの誘発と神経活動記録、光遺伝学を利用した大脳基底核の神経活動操作と行動への影響の観察という当初の計画と照らし合わせて、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
L-DOPA誘導性ジスキネジアマウスからの神経活動、特に大脳基底核の出力核である淡蒼球内節、黒質網様部における神経活動の記録を継続して行う。また、光遺伝学を利用した線条体投射ニューロンの興奮誘導を引き続き行い、淡蒼球内節、黒質網様部における神経活動の記録を行い、L-DOPA誘導性ジスキネジアマウスの神経活動と類似しているのかどうかを検討する。 一方で、L-DOPA誘導性ジスキネジアは大脳皮質-線条体路の神経伝達の変化に起因するのではないかとも考えられていることから、逆行性レンチウイルスベクターを利用して大脳皮質-線条体路にChR2を発現させ、自由行動下で大脳皮質へ光照射を行い、L-DOPA誘導性ジスキネジアと同様の不随意運動が誘発されるのかどうかを観察する。もし、不随意運動が認められたら、大脳皮質-線条体路を興奮させたときの淡蒼球外節、淡蒼球内節、黒質網様部などから神経活動を記録し、L-DOPA誘導性ジスキネジアを示すマウスの神経活動と似ているのかどうかを検討する。 さらに、抑制性の光駆動性イオンチャネルであるArch(archaerhodopsin)を線条体投射ニューロンに発現するトランスジェニックマウスを用いて、L-DOPA誘導性ジスキネジアを消去できるのかどうかを検証する。このトランスジェニックマウスに6-OHDAを投与してパーキンソン病モデルマウスにし、L-DOPAを投与してジスキネジアを誘発する。ジスキネジア出現時に線条体に光照射して線条体投射ニューロンを抑制し、このとき、ジスキネジアが消失するのかどうかを観察する。また、淡蒼球外節、淡蒼球内節、黒質網様部の神経活動を記録し、光照射によりこれらの神経核の神経活動が正常なマウスと同様に変化するのかどうかを検討する。 これらの実験により、L-DOPA誘導性ジスキネジアと大脳基底核の回路変動との因果関係を明らかにする。
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Research Products
(16 results)