2015 Fiscal Year Annual Research Report
ミュータジェネシスによる脳腫瘍マウスモデルを用いた細胞競合の解析
Publicly Offered Research
Project Area | Cell competition: a mechanism for survival of the fittest in the multi-cellular community |
Project/Area Number |
15H01482
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高祖 秀登 東京大学, 医科学研究所, 特任助教 (50612876)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 細胞競合 / ミュータジェネシス / 脳腫瘍 / トランスポゾン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、脳腫瘍モデルマウスを用いて細胞競合の解析を行っている。特に異常細胞が周囲の正常細胞との競合に打ち勝ち、癌幹細胞となり無制限に増殖を開始する初期過程に着目し、そのようなプロセスに関与する遺伝子の同定を目指している。そのために、(1)トランスポゾン・ミュータジェネシスによる小脳髄芽腫のマウスモデルを用いて、腫瘍病変の単離を行った。さらに細胞競合班での共同研究により、(2)RasV12グリオーマモデルを用いた細胞競合の解析を開始した。
まず(1)について、ミュータジェネシスによる脳腫瘍モデルマウスの立ち上げを行った。腫瘍形成のタイムコースを明らかにするために、経時的な組織解析を行った結果、腫瘍の肉眼的な同定が可能となる時期として3ヶ月齢が適することが分かった。3ヶ月齢を目安に、腫瘍病変の回収を行った。さらに、肉眼的には局在が明らかではない初期病変についても単離を行うために、腫瘍細胞でGFPが発現するMath1-GFPトランスジェニックマウスをJacksonから搬入した。脳腫瘍モデルマウスと交配し、Math1-GFPアレルを持つ系統の確立を進めた。次に(2)について、RasV12グリオーマモデルを立ち上げるために、北大からLSL-RasV12-IRES-EGFPマウスの搬入を行った。神経幹細胞でRasV12の影響を解析するために、神経幹細胞特異的にCreERを発現するMsi1-CreERトランスジェニックマウスとの交配を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、解析に必要な脳腫瘍モデルマウスを準備するために、マウスの交配を中心に実験を進めた。申請者は先行研究において、Creによる組換え依存的にトランスポゾン・ミュータジェネシスが活性化する遺伝子改変マウス(トランスポゾンマウス)を、中枢神経系全体でCreが発現するNestin-creトランスジェニックマウスと掛けあわせることで、 小脳髄芽腫が形成することを見出した。脳腫瘍の初期病変を単離し、細胞競合に寄与した遺伝子を同定するために、この脳腫瘍モデルマウスが必要となる。トランスポゾンマウスを凍結胚から起こし、繁殖コロニーを確立した。トランスポゾンマウスをNestin-creトランスジェニックマウスと交配し、経時的に脳の組織学的な解析を行った。その結果、2~3ヶ月齢において、約4割のマウスで腫瘍病変が形成することが明らかになった。腫瘍が肉眼的に同定できる3ヶ月齢を目安として、腫瘍病変の回収を進めた。一方で、肉眼的には同定できない初期病変を可視化するために、腫瘍細胞でGFPが発現するMath1-GFPマウスをJacksonから購入した。IVFにより動物施設へ搬入し、脳腫瘍モデルマウスとの交配を開始した。小脳髄芽腫が、小児脳腫瘍の中で最も頻度が高いのに対して、成人の脳腫瘍で高頻度であるのがグリオーマである。グリオーマの形成過程で細胞競合現象が起こる可能性を検討するために、細胞競合班での共同研究を開始した。今年度は、組換え依存的にRasV12-IRES-EGFPが発現するLSL-RasV12マウスをIVFにより動物センターへ搬入した。
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Strategy for Future Research Activity |
小脳髄芽腫モデルからの腫瘍病変の回収を進める。特に今年度は、Math1-GFPのアレルを持った脳腫瘍モデルマウスの数を増やし、脳腫瘍の兆候(体重減少、歩行障害など)をモニタリングする。症状を呈したマウスについては、小脳を単離し、GFPの蛍光を指標に腫瘍病変を回収する。症状を呈しない場合にも、3ヶ月齢を目安に腫瘍の回収を行う。一方で、肉眼的に腫瘍の局在が明らかではない初期病変についても単離を試みる。マウスが症状を呈しない時期(8週令前後)に、脳腫瘍モデルマウスから脳を摘出し、GFPの発現を指標に腫瘍病変が同定できるか検討する。GFP陽性細胞クラスターが可視化できた場合には、病変の回収を行う。単離した腫瘍病変の総数が約50個に達した時点を目安に、腫瘍からゲノムDNAの抽出を行い、トランスポゾン挿入部位の同定へと進む予定である(次世代シークエンサーの1ランに相当)。一方、RasV12を用いたグリオーマモデルの解析も並行して行う。タモキシフェン投与依存的に神経幹細胞で組換えを誘導できるMsi1-CreERマウスと、LSL-RasV12マウスの交配を行う。神経幹細胞で組換えが起こると、RasV12-IRES-EGFPが発現し、GFPの蛍光を指標に、RasV12発現細胞を追跡することができる。タモキシフェン投与の時期を、生後直後と2週令の2つの条件で検討する。タモキシフェン投与直後、1週間後、2週間後、1ヶ月後を目安に組織学的な解析を行い、RasV12発現細胞の挙動を追跡する(増殖やアポトーシス)。タモキシフェン投与量を変えて、RasV12発現細胞の割合を変化させて、表現型の違いを観察する。
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