2015 Fiscal Year Annual Research Report
海綿動物に学ぶ水輸送システム
Publicly Offered Research
Project Area | Innovative Materials Engineering Based on Biological Diversity |
Project/Area Number |
15H01604
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
椿 玲未 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋生命理工学研究開発センター, ポストドクトラル研究員 (10735905)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 構造 / 鞭毛 / 海綿動物 |
Outline of Annual Research Achievements |
海綿動物は、体内に密に張り巡らされた水路(水溝系)を持ち、水路に面した細胞の鞭毛運動によって水流を起こし、水溝系内部に取り込んだ水の中に含まれる微小な粒子を濾しとって食べる。またカイメンは呼吸もこの水路網を介して行う。つまり摂食と呼吸という生命活動の維持に非常に重要な機能をつかさどるカイメンの水路網は、体内の適切な場所に適切な量の水を分配するすぐれたネットワークシステムだと言えよう。そこで本研究では、カイメンの水溝系を水輸送システムと捉え、生物学にとどまらず物理学的、情報工学的なアプローチからもカイメンの水溝系の寄贈を明らかにすることを目的とする。 平成27年度には、カイメンの水溝系の立体構造の三次元構築とその定量的解析手法を開発し、さらに鞭毛運動による水輸送機能についても新たな知見を得ることができた。具体的には、水溝系の立体構造については、まずはマイクロフォーカスX線CT装置でカイメンを撮像し、得られたデータから体内の空所を水路構造として抜き出し、その立体構造をネットワークとして自動的に書き出すプログラムを開発し、ネットワークの機能を解析する基盤が整った。鞭毛運動についてはヨワカイメンEunapius fragilisを対象として解析を進めており、ヨワカイメンの鞭毛運動周波数は同じ科に属するヌマカイメンSpongillia lacustrisですでに報告されているよりもはるかに高速であることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、初年度である2015年度はカイメンの水路構造をネットワークとして書き出すプログラムを開発し、さらには2016年度に計画していた鞭毛運動の解析にも着手することができた。しかしその一方で、2015年度に予定していた流速の実測については手法の問題から当初の計画通り進めることができなかった。以上を総合的に考えると、当初の予定よりも遅れている部分と進んでいる部分が同程度にあるため、全体としてはおおむね順調に進展していると結論できる。
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Strategy for Future Research Activity |
得られた水路網のネットワーク構造の、輸送効率や頑強性といった特性を定量的に評価する。近年、様々な種類のネットワークに適用することができる、定量的な頑強性の評価手法も提案され、ネットワーク科学分野において工学応用に発展しつつある技術として注目されている。そこで今後は、そのようなネットワーク科学の手法をカイメンの水路網評価に適用することにより、定量的な評価・比較を行う。さらに、鞭毛運動についても現在はまた周波数しか調べていないが、今後より詳細に運動を解析することにより周囲の微小な流体環境を明らかにする。これらの知見を統合して、最終的にはカイメンの水路網の水輸送システムを規範としたネットワークシステム構築の指針を得ることを目的として研究を推進する。
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Research Products
(11 results)